荒井良二さんインタビュー

#004 荒井 良二さん

5.境界線を超えた表現

愛知県児童総合センターでのワークショップは、いつも楽しみにされているようですが、どんなところが場としておもしろいところなんでしょうか?

荒井:田島さんっていう、ブルーノ・ムナーリを大好きな人がいてね。だから興味があるというか、おもしろいなって思ってる。それがスタッフにも徹底されているんだけど、すごくのびのびしてるしね。こうもやれる、これもできるっていうアイデアを随所に感じられるんだ。今年の1月にもお父さんと子どもでワークショップをやってほしいって言われて。最初やだなぁって思ったんだけどね。結果的に、すごくおもしろかった。

—ミラノでムナーリのお墓参りまでされたそうですが(笑)、ブルーノ・ムナーリのどんなところに魅力を感じていますか?

荒井:ムナーリに詳しい訳じゃないけど、どう考えたって、おもしろいよね。ムナーリのことを知っていくと、この人が何者かなんて気にならなくなる。あるところではデザイナー、あるところではアーティスト。そういうふうに生きてきた人なんだと思うんだけど。ムナーリのデザインは「人間」のことを考えているんだよね。そうすると、そこには当然「子ども」も含まれているから、「子ども」のことをやるのも自然のことだったんじゃないかと思う。そういうことを、無理なく考えられた人なんじゃないのかなぁ。

でも、実際のところはみんな、そういうふうに生きてるんじゃないかと思うんだけど、大学なんかに行くと、ジャンルが細かく分かれているじゃない。そういう仕切りがあるから学問なのかもしれないけど、それを超えたところで表現することは、当たり前のことなんじゃないかな。
デザイナーで、「子どものことを(仕事として)するのが苦手だ」っていう人いるけど、そういう人ってダメだと思う。そんなこと、口が裂けても言っちゃいけないと思うんだよね。「子ども」のことを考えたり、つくったりする仕事が、あるクオリティーとして低いものだと見てると思うんだ。日本では、そう思ってる人が多いよね。それが悔しいし、なんとかそういう意識を、少しでもはっとさせたいって思うから、絵本でやろうとしていることがあると思うんだ。「絵本」と「アート」を分けて考えるんじゃなくてね。だって、既に「アート」の中に「絵本」は含まれているはずだから。

Profile

荒井良二 荒井良二(あらいりょうじ) 1956年山形県生まれ 日本大学芸術学部美術学科卒業。 イラストレーションでは1986年玄光社主催の第4回チョイスに入選。1990年に処女作「MELODY」を発表し、絵本を作り始める。1991年に、世界的な絵本の新人賞である「キーツ賞」に『ユックリとジョジョニ』を日本代表として出展。1997年に『うそつきのつき』で第46回小学館児童出版文化賞を受賞、1999年に『なぞなぞのたび』でボローニャ国際児童図書展特別賞を受賞、『森の絵本』で講談社出版文化賞絵本賞を受賞、2006年に『ルフランルフラン』で日本絵本賞を受賞。90年代を代表する絵本作家といわれる。そのほか絵本の作品に『はっぴぃさん』『たいようオルガン』(偕成社)『えほんのこども』(講談社)『うちゅうたまご』(イースト・プレス)『モケモケ』(フェリシモ出版)など。作品集に『meta めた』(FOIL)がある。 2005年には、スウェーデンの児童少年文学賞である「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞」を授賞。「スキマの国のポルタ」で 2006年文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞。絵本のみならず、本の装丁、広告、舞台美術、アニメーションなど幅広く活躍中。 荒井良二オフィシャルWEBサイト http://www.ryoji-arai.info/