#002 萩原 修さん

#002 萩原 修さんインタビュー
こどもの感覚、大人の能力

「コド・モノ・コト」というプロジェクトがはじまった。デザイナーが集まってこどもの道具づくりをしているらしい、という情報が入ってきたのは3年程前のこと。萩原 修さんがそのプロジェクトを主宰されていることを知って、当時デザイナーを含め周囲の大人達のこどもへの無関心と闘っていたわたしには、眩しく感じられたのを覚えています。
今回インタビューさせていただいて、萩原さん自身が困難なことも含めて、とても愉しんでいるように見えたことが印象的でした。素朴に疑問を持ち、状況をよくしていくためにデザインができることとは何か?と問い続けることを大切にしながらも、そのプロセスはあくまで愉しく、関わる人の自主性にまかせていく。そうした姿勢が、プロジェクト全体を活発で健やかなものにしているように感じました。
子どものために、ではなくて、大人自身が愉しんでいるかどうかが、最も大切なことなのかもしれません。

1.子どもがいる環境で、子どものものをつくる

第1回「コドモといっしょの道具/コップ」持ち寄り勉強会の様子
「ふだんの暮らしの中で使う道具」を持ち寄って、手にとって、使ってみて、「コドモといっしょの道具」について考え、勉強する場をつくっている。写真は、第1回「コドモといっしょの道具/コップ」持ち寄り勉強会の様子。
ワークショップ「デザインの時間」の様子
ワークショップ「デザインの時間」の様子

遠藤:まずは、萩原さんが「コド・モノ・コト」を立ち上げられたきっかけから教えていただけますか?

萩原:リビングデザインセンターOZONE1 にいた時に担当した『キッズ・サイズ・デザイン展』2 で、世界中の子ども家具を見たんですが、海外のものに比べて日本では子ども家具自体があまりなかったんです。デザインという視点から見て、子どもが使う日用品や家具が日本ではどうしてこんなに遅れてるのかなと疑問に思ったことがきっかけになりましたね。

どうしても、子どものものを商品化しようとすると、メーカーは利益優先で子どもがいないところで議論を進めてしまいがちなんだけど、自分たちで子どものものをつくるなら、身近に子どもがいる環境の中でつくりたいと考えたんです。最終的に、ワークショップと展覧会形式でのプロダクト提案を平行してやっていこうということになって、2005年の5月5日にスタートしました。といってもその一年ぐらい前から準備は始めていたんですけど。そろそろ四年経ったので、もう第一期終了で、今年から第二期です。

遠藤:子どもたちとのワークショップをしながら、子どものものをつくるっていう方法がとてもおもしろいですよね。具体的に、これまでの4年間でどんなことが見えてきましたか?

萩原:第一期は本当に試行錯誤で、ワークショップのデザインという切り口でやっているので、それが本当に成立するかどうか。あるいはどういうプログラムがいいのかをまじめに考えて、ようやく方向性が見えてきたところだし、ものづくりのほうも展覧会という形式で、いろんな人に参加してもらって、テーマもいろいろやってみて、こんな感じなのかなというのがようやく見えたところです。

次のステップとしては、もう少し具体的に世の中に広まるようなものをつくる事だったり、その前段階としてみんなでものについて話し合う機会を持とうとしています。

  1. リビングデザインセンターOZONE:インテリア・住まい作りに関するさまざまな展覧会やセミナーを展開する複合施設。1994年開館
  2. キッズ・サイズ・デザイン展:ヴィトラ・デザイン・ミュージアム(ドイツ)の企画展として1997年オランダのロッテルダム美術館を皮切りに世界を巡回した展覧会。子どものために制作された家具、日用品を世界中から集めて展示された。リビングデザインセンターOZONEでは、2001年11月3日〜12月2日まで開催された

Profile


萩原 修(はぎわら しゅう)
デザインディレクター 1961年東京生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。 大日本印刷を経て、93年よりリビングデザインセンターOZONEで、住宅、家具、日用品など生活デザインの展覧会を300本以上担当。 04に年独立し、書籍、日用品、店舗、展覧会、コンペなどの企画、プロデュースをてがける。また、『コド・モノ・コト』『中央線デザイン倶楽部』『国立本店』『未来本』『かみの工作所』『カンケイデザイン研究所』『てぬコレ』など独自の活動を推進している。 著書に「9坪の家」「オリジンズ」「デザインスタンス」「コド モのどうぐばこ」などがある。2005年には、実家の後を継ぎ、『つくし文具店』店主になる。

コド・モノ・コト
http://www.codomonocoto.jp