荒井良二さんインタビュー

#004 荒井 良二さん

2.共感覚の通路

—説明できないものが、絵本になったんですね。そのあたりを、もう少し詳しく教えてください。

荒井:「90年代の絵本を語る」というテーマの公開パネルディスカッションの中で、長年絵本作家として活躍されている方が「これからは、感じる絵本とか、感覚が必要とされる絵本が出てくるだろう」みたいなことを言ってて、すごくよくわかるんだけど「それって今までなかったの?」って思ってね。そういうことを、改めて言わないといけない業界なのかもしれないけどね。
「感覚で遊ぶ」とか「感覚に訴える」って、口では簡単にいうけど、それってどういうことだろう?って、ずーっと考えててね。でも、うまい具合にかたちにならなくって。今は出すタイミングではないな、というのもあったんだけど。 それで、絵本っていうと、文字を読みはじめた小さい子たちに向けてのものだと思われているけど、文字を読めない子どもたちに絵本を見せたらどうなるんだろう?って考えてね。そうすると、いよいよ「感覚」なのかなって。

—「感覚」の絵本ですか?

荒井:そう。それで「感覚」を考えていったら、「共感覚」って言葉にぶつかったわけよ。精神科医の山中康裕先生が1、「今の子たちって、共感覚(センスス・コムニス)2の通路が狭いんだ」って言ってたんだよね。わけのわからないことで何か決定したり、遊んだりすることが、なかなかできなくなってるってことじゃないかと思ってね。極端にいうと、0か1か。子どもたちの中に曖昧な領域が少なくなってきてるんじゃないのかなって。

—「共感覚」についてもう少し教えてください。

荒井:赤ちゃんのときは、誰でもが「共感覚」状態にある。これは、食べ物じゃないから舐めちゃだめ!って言ってもわからないから、赤ちゃんって何でも舐めるじゃない? まだ、いろんなことがはっきりしてないからね。舐めてみてはじめて「あ、これ、食べ物じゃないみたい」って少しづつ学習していく。「これ、食べ物じゃないかもしれないけど、舐めてみたい!」っていう感覚は、成長と共になくなっていくんだ。だから「共感覚」って「五感以前の何か」と言えるのかなあ。

  1. 『飛ぶ教室 第20号 荒井良二 ぼくの絵本とその未来』(光村図書出版)に、山中先生との対談が掲載されている
  2. 赤ちゃんは、視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚等の異なる種類の感覚が未分化な知覚を生み出しており、通常その後の成長による感覚の発達にともなう脳の結合の変化によってこうした共感覚は失われていくとされる。この場合、成人して共感覚を保持している人は発達の過程で何らかの理由で脳の異なる部位への結合が保たれ、これらの複合した知覚もそのまま保たれているとする説もある。wikipediaから

Profile

荒井良二 荒井良二(あらいりょうじ) 1956年山形県生まれ 日本大学芸術学部美術学科卒業。 イラストレーションでは1986年玄光社主催の第4回チョイスに入選。1990年に処女作「MELODY」を発表し、絵本を作り始める。1991年に、世界的な絵本の新人賞である「キーツ賞」に『ユックリとジョジョニ』を日本代表として出展。1997年に『うそつきのつき』で第46回小学館児童出版文化賞を受賞、1999年に『なぞなぞのたび』でボローニャ国際児童図書展特別賞を受賞、『森の絵本』で講談社出版文化賞絵本賞を受賞、2006年に『ルフランルフラン』で日本絵本賞を受賞。90年代を代表する絵本作家といわれる。そのほか絵本の作品に『はっぴぃさん』『たいようオルガン』(偕成社)『えほんのこども』(講談社)『うちゅうたまご』(イースト・プレス)『モケモケ』(フェリシモ出版)など。作品集に『meta めた』(FOIL)がある。 2005年には、スウェーデンの児童少年文学賞である「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞」を授賞。「スキマの国のポルタ」で 2006年文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞。絵本のみならず、本の装丁、広告、舞台美術、アニメーションなど幅広く活躍中。 荒井良二オフィシャルWEBサイト http://www.ryoji-arai.info/