#019 末永美紀子さん

違いをこえて、共に生きる

#019 末永美紀子さんインタビュー

まだ小さかった娘が、顔にアザのある人に向かって「なんでそんな顔なの?」と質問したことがありました。私はすぐそばにいたにもかかわらず、とっさに聴こえないふりをしました。そのような自分のちぐはぐな行動がずっと胸に引っかかっていました。

「世の中にはいろんな人がいて、いろんな人と共に生きている」
そう思っているつもりだったけれど、果たして、本当はどう考えていたのだろうか。
子どもが、ひと目で「何かが違う」と感じるような違いを、ただ見て見ぬふりしていただけではなかったか…

日常の忙しさもあいまって、そんなモヤモヤもすっかり忘れた頃、末永さんが代表をつとめる保育園「ちっちゃなこども園にじいろ」「ちっちゃなこども園ふたば」「ちっちゃなこども園よつば」を訪れました。木の温かみと柔らかい色合いが印象的な保育園で、子どもたちが思い思いに遊んでいる様子は、なんとも幸せな光景でした。
末永さんの保育園では、痰の吸引や呼吸器、チューブを使った栄養補給などの医療的なケアが必要な子ども、障がいや発達の遅れがある子ども、健康や発達に心配の少ない子ども、いろんな子が一緒に過ごしています。子どもたちは、障がいの有無に関わらず、ひとりひとりの特性や発達状況を鑑みた配慮がなされていました。例えば、遊び終えて食事の支度を始めるタイミングがみな少しずつ違う、配膳される食事の量がひとりひとり違うなど、それは、うっかりすると気がつかないほど細やかなものでした。
園で見た光景に「いろんな人と共に生きるとはどういうことか?」という問いのヒントがあるように感じたことから、このインタビューが始まりました。
末永さんが実践されている“共生保育”とはどのような保育なのかについて、たっぷりお話を伺いました。

1.一緒にいる、共に生きる

橋本:末永さんの保育園では、医療的ケアが必要なお子さんも、そうでないお子さんも同じ環境で生活をする“共生保育”をされています。共生保育の“共生”とはどういう意味ですか?

末永:だいたいどこの国でも、昔、障がいがある人と健康な人は分けようという政策がありました。そこから「障がいのある方も一緒に生活しましょう」という社会に変わっていくのですが、その社会モデルにはいくつかの段階あると言われています。
まず、最初は、障がいのある人と健康な人を分けるような状態です。そこから少し進むと、インテグレーション(統合)とよばれる状態になります。インテグレーションは、障がいのある人になんらかの補助をつけることで、健康な人を想定した社会に適応させようとするやり方です。例えば車いす、補聴器、眼鏡。それから、理解がゆっくりな子どもにアシスタントの先生をつける。そういった補助を使いながら、健康な人のペースに合わせることを、障がいのある人に求めます。そこには「できることは素晴らしいこと」という考え方がベースにあります。その価値観自体は悪くないのですが、コインの裏表のように、この考えには「できないことはダメなこと」という価値観が隠れていることもあります。
ところが、3段階目のインクルージョン(包括)になると、「できないことはダメなこと」ではなく、いろんな人がいる前提でルールや環境を考えましょうという発想になります。例えば、授業のカリキュラムを設計する時にも、定型発達が基準ではない。発達障がいの方がいれば、彼らの特徴にも配慮して、カリキュラムを設計しようと考えます。

―共生保育の“共生”とは、インクルージョン(包括)のことですか?

末永:そうです。最近は、インクルーシブ保育という言葉も使われるようになっているので、そろそろ共生保育ではなく、インクルーシブ保育と言ってもいいかなと思っています。

園内-お絵かきをしている様子

Profile

末永美紀子(すえながみきこ)

特定非営利活動法人こどもコミュニティケア代表理事。
看護師として大学病院・こども病院に勤務した後、2004年に認可外保育園を開園。現在は、3つの保育施設と障害児通所支援施設を運営している。保育園では、先天性疾患や障がいのある子どもと健康不安のない子どもが共に育つ「共生保育」を行っている。