西村佳哲さんインタビュー

#001 西村 佳哲さん

6. 自分とふたりっきりで過ごす時間

遠藤:本当にそうですね。わたしも独りでハンカチで遊んでたのを、母親がほっといてくれてよかったと思います。

西村:子どもが独りでいる時間って、すごい大事だと思います。『子どもが孤独(ひとり)でいる時間(とき)』 1いう本があるんですけど、どういうことが書かれてるかっていうと、子どもには独りでいるときだけに進む、ある成長のプロセスがあるんだということを書いてるんですよね。子どもがひとりぼっちでいると、大人はネガティブな心配をしがちだけれど、ひとりで過ごしている彼らを尊重するべきだと。僕も本当にそうだなって思うんです。というのは、最初の方で話した、「自分が感じてることを感じる時間」っていうのは、独りでいる時間に進むことだし、行われることだし、そういうときって、ちょっと詩的な言い方をすると「自分とふたりっきりで過ごす時間」なんだよね。

他人づきあいと同じように、自分づきあいってものがあって、他人づきあいの時間の中で育つものと自分づきあいの時間の中で育まれるものと、両方あると思う。だから、一人遊びっていうのは、すごい大事なことだと思う。

いろいろ考えると、結局、子どもを信頼するかどうかということなんだよね。子どもは、ほっといても楽しむし、意味を見つけるっていうところを信じるか信じないかで、スタンスが決まってくると思う。ひいては、自分の事をどうとらえてるかっていうことが反映するんだよね。自分に対する信頼感があれば、他人に対する信頼感も発揮できるけど、自分に対する信頼感がなければ、他の人間に対しても、どうしてもその不安を投影してしまう。

それが子どもに対する目線についても同じように、この子たちには何かをしてあげないといけないんじゃないかっていう心の動きになっていくわけだよね。結局大人が、大人で精一杯自信を持って生きるっていうことが一番子どものためになると思う。誇らしい大人が増えること以外ないんだよね。そういう大人の姿を見ていられるとか、一緒に時間を過ごせるとかっていうことが、子どもにとって何よりも重要になると思う。

  1. 『子どもが孤独 (ひとり) でいる時間 (とき)』 エリーズ ボールディング(著)、 松岡 享子 (翻訳) こぐま社 (刊)

Profile

西村 佳哲(にしむら よしあき) プランニング・ディレクター 1964年東京生まれ。武蔵野美術大学卒。 つくる・書く・教える、三種類の仕事。建築分野を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物、公共空間のメディアづくりなど、各種デザインプロジェクトの企画・制作ディレクションを重ねる。 多摩美術大学をはじめいくつかの教育機関で、デザイン・プランニングの講義やワークショップを担当。リビングワールド代表(取締役)。全国教育系ワークショップフォーラム実行委員長(2002〜04)。働き方研究家としての著書に『自分の仕事をつくる』(ちくま文庫)、近著に「自分をいかして生きる」(バジリコ出版)がある。 リビングワールド以前の仕事「センソリウム」(1996〜98)は、オーストリア・Ars Erectronica CenterのPRIX ’97|.net部門で金賞を受賞。(プロジェクト・チームでの受賞。全体のマネージメントと企画・制作のディレクションを担当。 http://livingworld.net