西村佳哲さんインタビュー

#001 西村 佳哲さん

5. 世界の意味を見つけていく

遠藤:子どもの頃の遊びの話をもう少し続けると、わたしは5歳くらいの時、ハンカチを使って家やまちをつくっていくっていうことを飽きもせずやってたんですね。もちろんハンカチだから平面なんだけど、頭の中では立体になってるんです。それで、自然とそこで起きている物語も生まれてくる。時々、その時の感覚を思い出すんですけど、大人になった今も同じ事をやっているような気持ちになることがあります。わたしにとってハンカチが特別だったみたいに、いろんな人に子どもの頃の遊びをきくと結構おもしろいんです。

西村:ちょっと思い出したことがあるんですけど、アメリカのある高校教師が、教育委員会で行った発表の話を昔聞いたことがあって、人から聞いた話なんで、どこまで本当の事なのかちょっと定かじゃないんだけど。
その先生は、教え子がどんな人生を歩んだかってことをトレースしたんですね。全教科オール5だとか、オールAだとか、そういう学生がどんな人間になっているかとか、あるいは一教科だけバーンとできるんだけど、他はおしなべてダメみたいなむらっ気のある子どもたちはどうなっているかなって。そうすると、前者の子たちは、大企業だとかそういうところに勤めてるけれども、後者の子たちはクリエイティブな職業に、みたいな話があって。ここまではよくある話だと思うんだけど、彼女の発表が面白かったのは、その子たちがどんな間取りの家で育っていたかっていうことを研究してたんですよ。前者の子たちっていうのは、新興住宅地の子どもが多かったっていうんですよ。あるいは新築物件。で、後者の子たちってのは古い家で育ってきた子が多かったと。

ここから先は、僕の解釈になってくるんですけど、要するに新しい家っていうのは、ここはホール、ベッドルーム、キッチンとか、あらかじめ機能単位で部屋に名前が付いてる。でも、古い家っていうのは、増改築とかしてあって意味不明の空間が結構ある。そうすると、廊下なんだか部屋なんだかよく分かんないとか、意味不明の段差があったりとか、そういうことがあるということなんだろうなと想像するわけ。つまり、空間の意味を自分で見つけるっていうことを空間がさせてくれたんだろうなっていうふうに解釈するわけです。

遊びの話に関していうと、デザイナーの連中と話してると、ダイヤブロックで育ったことを誇りにしてる人が結構いるんです。レゴに対するあこがれもあるんです。でも、違うんだっていう感じがあるのね。それは何かっていうと、レゴはこれで何をつくりましょうっていうのが、あらかじめ設定されている。ダイヤブロックはそれがない。でも、それが自分にとって、とても大きなことだった。それが自分をつくってるんだってことを、すごい誇りにしているんだね。世界の意味を自分で見つけていくっていうのかな、自分で世界をつくっていくっていうか、そういう経験を小さい頃にできるっていうのは、本当に得難いことだと思うね。

Profile

西村 佳哲(にしむら よしあき) プランニング・ディレクター 1964年東京生まれ。武蔵野美術大学卒。 つくる・書く・教える、三種類の仕事。建築分野を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物、公共空間のメディアづくりなど、各種デザインプロジェクトの企画・制作ディレクションを重ねる。 多摩美術大学をはじめいくつかの教育機関で、デザイン・プランニングの講義やワークショップを担当。リビングワールド代表(取締役)。全国教育系ワークショップフォーラム実行委員長(2002〜04)。働き方研究家としての著書に『自分の仕事をつくる』(ちくま文庫)、近著に「自分をいかして生きる」(バジリコ出版)がある。 リビングワールド以前の仕事「センソリウム」(1996〜98)は、オーストリア・Ars Erectronica CenterのPRIX ’97|.net部門で金賞を受賞。(プロジェクト・チームでの受賞。全体のマネージメントと企画・制作のディレクションを担当。 http://livingworld.net