西村佳哲さんインタビュー

#001 西村 佳哲さん

8. 既にあるものに出会い直すために

遠藤:リビングワールドのものづくりについてと、西村さんの目から見た今のデザインを取り巻く現状についてお聞きしたいのですが。

西村:リビングワールドでは、自分自身についてのことであったり、自分の身の回りの世界にかんすることであったり、そういう既にあることを感じるための道具づくりを一貫してやっていると思います。

例えば、風灯 1は、風が吹いてるっていうことをあらためて共有するためのメディアをつくるという試みでしたし、センソリウム 2にしてもそうなんですよね。コンテンツを新たにつくり出さなくちゃいけないっていうのは、嘘なんじゃないかと思ってて、既にあるものにもう一回気付くとか、出会い直すだけで十分おもしろいんじゃないかと考えているんです。

デザインについてというと、既にあることであるのに、違いに気が付いたり、それをみんなと共有したり、再発見したりすることに、デザインっていう技法をつかうことはできるなあと思ってるんだけど、何かを売るためだとか、欲しい気持ちを感知するだとか、そういうことのために使われるデザインっていうのは、ちょっとしんどいなと思ってますね。例えば、僕らは食器をつくる気に全然なれないんですよ。

風を感じる灯り
風を感じる灯り

遠藤:それはどうしてですか。

西村:いっぱいあるから。そのラインナップに入っていこうっていう意欲がわかないんです。すごくいい食器もいっぱいあって、照明器具とかも本当にいいものがいっぱいあって、何を新しくつくる必要があるんだろうって思うんですよ。

デザイナーってね、絵を描くのが得意だったり、形づくるのが得意だったりして、自分のそういう得意なところを活かして、社会の中に自分の居場所を得たいっていう願いがあると思う。
でも一方で、これ以上いらないっていうものもあると思う。「ものをつくる」っていうのはゴミをつくることなんですよね。それはどうしたってそうなので、今「ものをつくる」っていう生業を目指すんだったら、たくさんあって、もうこれ以上いらないぐらいなんだけれども、それでもわたしはつくるんだと思える人以外はいらないと思ってるんです。大学は心太式に人材輩出していくけれども、その彼らが全員デザイナーになる必要なんて別にないと思う。でも「デザイナー」ってイメージがすごくあるから、次々に仕事をするとか、また新しいプロジェクトやってますとか、そういう強迫観念の中に、デザインという仕事をとらえていくと、しんどくなってくる気がするんです。
世界はどう考えても高度成長期じゃない。そこをどういうふうに、どれぐらい充実させて生きていくかってことが大事だと思ってて、成熟したからとか、衰退していくからって、不幸せなのかっていうとそんなことないですよ。

2001年に試作、2005年に2ndバージョンを制作。風を感じる灯り
2001年に試作、2005年に2ndバージョンを制作。風を感じる灯り
  1. 風灯 2001年に試作、2005年に2ndバージョンを制作。風を感じる灯り
  2. センソリウム 「世界の感じ方」を組みかえるをコンセプトに、インターネット上で実験的な表現を取り込むプロジェクトの総称。IWE96(Internet World Exposition1996)をきっかけに、活動を開始。

Profile

西村 佳哲(にしむら よしあき) プランニング・ディレクター 1964年東京生まれ。武蔵野美術大学卒。 つくる・書く・教える、三種類の仕事。建築分野を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物、公共空間のメディアづくりなど、各種デザインプロジェクトの企画・制作ディレクションを重ねる。 多摩美術大学をはじめいくつかの教育機関で、デザイン・プランニングの講義やワークショップを担当。リビングワールド代表(取締役)。全国教育系ワークショップフォーラム実行委員長(2002〜04)。働き方研究家としての著書に『自分の仕事をつくる』(ちくま文庫)、近著に「自分をいかして生きる」(バジリコ出版)がある。 リビングワールド以前の仕事「センソリウム」(1996〜98)は、オーストリア・Ars Erectronica CenterのPRIX ’97|.net部門で金賞を受賞。(プロジェクト・チームでの受賞。全体のマネージメントと企画・制作のディレクションを担当。 http://livingworld.net