#020 片岡佳奈さん

3. 違う未来を見ている

―活動の根っこには、やはり精神疾患を持つお父さんと育った経験があるように感じます。一方で、大変さや苦しさが想像できるからこその辛さはないのでしょうか?

東京から佐賀に戻ってきた頃、以前父親が入院していた病院の近くで、あの頃の辛さに引き戻されたことがありました。でも、不思議と患者さんとのやりとりではそういう辛さを感じることはありません。すごく辛そうなお母さんの話を聞いて、悔しさと悲しさで一緒に泣いてしまうことはあります。でも、それは「ああ辛かったですね、苦しかったですね」という気持ちであって、自分自身の辛かったことに引き戻されるわけではない。その人と一緒に歩くというか、一緒に居る感じ。ただ、自分の辛かった経験が、話を聴くときの感情の引き出しになっているとは思います。「辛い」にもいろんな「辛い」があるけれど、「ああ、こういう感じに辛いんだな」って感じられる気がします。「辛い」と言われた時に「辛いですね」、「痛い」と言われたときに「痛いですね」とちゃんと言える。私には、負の感情の引き出しがそれこそ山のようにあるので。父が閉鎖病棟に入院していた頃、病院に行くのが苦しかったんです。閉鎖病棟でずっと暮らしている人を見るのが本当に辛くて。障がいを持つ子どもの中には、もともとあった障がい以外のことが原因で、精神疾患になったり、他の障がいになってしまうこともあります。そこを食い止めて、閉鎖病棟や社会から隔離された場所で暮らすのではなく、社会の中でなんらかの役割や居場所を持ちながら、もっと豊かに暮らすことができたらいいなと思っています。アサヒ薬局での取り組みも、そういった道のりのひとつです。


隣にある旧薬局を会場としたアート教室。たくさんの親子が参加し、思い思いの作品をつくる。

アサヒ薬局での、コミュニティ活動をきっかけに、いろんな出会いに恵まれました。ある作業所で、障がいのある若者がパンを作っている様子を見て、誇りを持ってパンを作っていることが伝わってきて、本当に感動しました。嬉しそうにしている、明るい姿に、違う未来を見せられた気がしました。

―違う未来というのは、お父さんの時には手に入れられなかった未来ということ?

そう!ああ、本当はこんな未来もあったんだ!って。

―お父さんは今どうされていますか?

高齢者の施設に入っています。身体的な疾患で、今は首から下は動かなくなってしまったので、昔は本当に色んな騒ぎを起こしてくれたけれど、今はあんまり悪いことしない。会いに行っても、すっかり「いいじいさん」になってしまいました(笑)。とってもいいところで穏やかに暮らしています。

ーいちばん大変なところは抜けた感じでしょうか?

そう!お父さんに関しては。薬局については、まだまだこれからですね。


地域の方たちが四季折々の花や野菜を届けてくれる。