2.いろんな方向から光を当てる
―日本では、発達障がいも含め、障がいがある子どもの割合はおよそ1割1と言われています。末永さんの園ではどのような割合ですか?
末永:医療的ケアを毎日必要とするお子さんだけでも約15%。医療的ケアの必要のないお子さんを含むと2割を超えています。
―社会平均と比較するとかなり高いですね。どんな体制で保育をされていますか?
末永:時間帯にもよりますが、障がい児4~5人を含む19人の子どもを、大人8人で見ています。保育士と看護師、保育補助者でチームを組んで保育をしています。
―保育士も看護師も“ケアをする職業”ではありますが、持っている専門性が違うかと思います。どのように役割分担していますか?
末永:その質問はよく受けるのですが、そもそも、専門性の違いなんて本当にちょっとしかありません。
―専門性の違いはほとんどない!そうなんですか?
末永:多くの方は「医療」「教育」「福祉」「保護者支援」は分かれていて、連携とは、それぞれの周辺をつなぐことだと思われるかもしれません。ですが、正しくは、これらの領域は大きく重なり合っていて、重なり合っていない部分は非常に小さいです。実は、看護師しか分からない、看護師だからできることはそれほど多くありません。それぞれの領域を押し広げることもできます。例えば、今は教員で、第2号研修2などを受けて、医療的ケアができる方も増えています。
医療や福祉や教育について、どこまでが自分たちの領域なのか、縄張り争いするのは本当にばかばかしい話です。「これは保育でやる保護者支援じゃない」「教育でやる範疇を超えている」「医療は専門外だから分からない」
こんなことを言っても意味がありません。子どもたちは、保育園や学校に行き、風邪をひいたら病院で外来にかかり、自宅で休み、時には入院もする。生活の中では全部オーバーラップしています。それに、医療を受けている期間も、教育や福祉の必要がなくなるわけではなりません。そうであれば、私たちはこれらの知識をできる限り持つべきです。
もちろん得意分野や知識の深さは専門や資格、人によって違うけれど、みんながのりしろをもつことで、丈夫な支援ができるようになると考えています。
―自分の専門だけではなく、必要があれば、他領域のことも研鑽していく…
末永:領域なんて関係ないです!
大切なのは、その人にとって必要かどうかです。だってお母さんたちは、家でリハビリもするし、薬も飲ませるし、状態によって薬を増やしたり減らしたりする判断をすることもあるんですよ。どうして保育園の先生が、保育の中で手を動かす練習をしたり、しっかり発音できるようになるための音を聞かせてはいけないんでしょう?
もちろん、手前勝手にやることはいけません。もし医師が判断しなければならないほど切迫している状態であれば、受診や入院という判断がなされます。でも、「この子の、この症状に対してはこの薬を投与する」ということが既に医師から指示されていて、病院から退院できているということは、その範疇の中で、非医療者が判断してもいいということです。
「それはやりたくない」「自分たちの領域に入って欲しくない」などの思惑もあるかもしれません。でも、持っている免許や専門によって、できるケアを制限してしまえば、ケアを必要としている子どもとその家族は困ってしまいます。できるケアを制限するのではなく、逆に、必要な支援にできるだけ応えたいと思う人たちに研修の機会をつくり、権限を与えることが大事だと思います。大切なのは専門領域じゃないんです。私たちがやるべきことは、“その子に必要なこと”です。だから私たちは、あえて“保育”や“看護”とは呼ばず、「ケア」と呼んでいます。
現状では、看護師が保育の領域に広げていくことの方が簡単ですが、うちの保育園では、保育士さんも、酸素ボンベの使い方やサーチレーションモニター3の設定の仕方や数値の読み方などの勉強会をやっています。
こういう連携をすることは、こどもにいろんな角度から光を当てるということなんです。例えば、看護師は子どもをひとりずつ分けて見るけれど、保育士は集団の中で子どもがどういう風に動くかをものすごく敏感に見ることができたり。できるだけたくさんの面から光を当てて、いろんな角度から見られたら、その子どものことをもっとよく理解できますよね。それはその子にとっても福音になると思います。
- 「平成29年度版障がい者白書」(内閣府)によると、18歳未満の身体障がい者は7.6万人(18歳未満人口比率で約0.4%)、18歳未満の知的障がい者は15.9万人(18歳未満人口比率で約0.8%)、20歳未満の精神障がい者は26.9万人(20歳未満人口比率で約1.2%)。「通常の学級に在籍する発達障がいの可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」(文部科学省平成24年発表)によると、発達障がいの可能性のある小中学生が6.5% ↩
- 正式名称は「喀痰吸引(かくたんきゅういん)等研修の第2号研修」。修了すると、吸引装置を使った痰を吸引、胃ろうや経鼻でのチューブを通じた栄養補給などに従事できる認定書が受けられる ↩
- 動脈(心臓から全身に運ばれる血液)に含まれる酸素の飽和度(Saturation:サチュレーション)を測る機械のこと ↩