4.まちに種をまく
―「パーマカルチャーと子どもの未来研究室」では、参加者の皆が、あの場を安全な場であると感じているように見えました。私も、子連れだったにもかかわらず、すごくリラックスして参加していました。
僕にとってもすごく不思議で新鮮な経験でした。あのワークショップだって、捉えようによってはカルチャースクールのように「運営者です」「講師です」「受講者です」っていう「VS」な関係にもなりえる。でもそうじゃなかった。例えば、時々、予告なく内容が変わったりすることもあったけれど、クレームみたいなことはなく、皆楽しんでくれたり。変にビジネスライクになる感じでもなく、みんなが自分の特技を持ち寄って文化祭みたいなこともできた。ああいう関係性の中で学びあえるってこんなに嬉しい気持ちになるんだ!って、すごい発見でした。
考えてみると、世の中にはいたるところに「VSな関係」がありますよね。例えばお金を払ってサービスを受ける時、要求のしあいが起こる。「対価は払ったからこれくらいはやってね」「いやいや、この料金ならここで精いっぱい」
お互いが相手からたくさん引き出すことばかり考えて要求しあっていると、お互いの要求が100%通ることはないと思うんです。そして満たされなかったことは、フラストレーションとして心に残る。しかもそのフラストレーションは「相手が悪い」「社会が悪い」というように自分の外に矛先を向けているから、何も解決しないんですよね。そういうことを考えている時って、心はネガティブで、全然豊かじゃない。
去年のワークショップでは、お互いがギフトしあう関係性があったような気がして、本当に豊かな時間でした。PAWAの主宰者であり、パーマカルチャーデザイナーであるフィル・キャッシュマンと共に講座を運営していましたが、最後の卒業研究では、僕とフィルの出る幕がなかったですね。ワインを持って各チームを陣中見舞いするくらいしかできなかった(笑)。
―なぜああいう場になったと思いますか?どうしたらああいう場が作れるのでしょう?
うーん…確信犯的にファシリテートして全く同じようなことをできるかというと、僕はそこまでの自信はないです。ただ、同じメンバーで一年間集い続けることは、間違いなく大事なことですね。一度きりの関係では難しいと思います。
どうすればああいった場が作れるかはわからないけれど、強く望むようにはなりました。
―ああいうコミュニティが成立し得ることが分かっただけでも、すごいことですよね。
そうですね。すごい発見でした。ワークショップが始まった時には全く見えていなかったものが今は見えています。共感の輪が広がって、いろんな特技を持った人たちの生態系ができていく、あの化学反応の起き方を体験したことで、もっと面白いことができるんじゃないかって気持ちになっています。
今、僕がチャレンジしているのは公共事業のDIY。強制的に税金を徴収して行う公共事業ではなく、趣旨に賛同した人ができる範囲で知恵や労力やお金を出し合って公共事業を作る社会実験を、「ごかんのえき」を起点に始めています。逗子駅前の商店街にフリースペースとして開いている「ごかんのえき」は、こどもたちが立ち寄れる場所、表現できる場所、街の人たちと学びあえる場所にしたいんです。
共感を生むかどうかはシビアにフィルターがかかるとは思いますが、最初の一歩として、「ごかんのたね」というフリーペーパーを作りはじめました。ごかんのもりで採れた野菜の種を付録としてつけているんです。野菜の種と一緒に共感の種がまちに芽吹いていったらいいなと思ってチャレンジしています。