2. 子どもを知ることからはじめる
―いつもおかあさんたちが園内のあちこちにいらっしゃいますね。今日拝見しただけでも、保育に参加されていたり、植物の手入れをしていたり、染色の準備をしていたり、焚き火の番をされていたり….。みなさん、とても活き活きとされているように見えます。
井口:こちらからも畑仕事などのご協力をお願いをすることはありますが、幼稚園が楽しいからいてくださるんだと思っています。みなさん、自然と仲間になっていきます。一緒に手仕事をする中で、安心して話ができるようなところがあるようですね。ただ一緒にいるんじゃなくて、何か仕事を共にすることが大事だと思います。おかあさん同士が仲間になっていくと、子どもたちにとってもいい影響があると思いますね。
みなさんに楽しく保育に参加していただくためには、ここでの保育を理解していただかないといけませんから、とにかく考え方を具体的に伝えるようにしています。
―園の考え方は、どんなふうに伝えられていますか?
井口:「おもしろおかしく、アカデミックに」とよく言っています。おもしろおかしくだけじゃだめで、根底にあるものがはっきりしていないといけないんですね。ここで起きていることは楽しいだけじゃなくて、意味があるんだということを、みなさん感じられているのではないでしょうか。
―先生は、子どもたちと一緒にずっと園庭にいらっしゃいましたが、常に現場に出るように意識されているのでしょうか?
井口:幼児教育に携わる者であれば、常に現場に出ること、そして観察することは基本だと思います。いま目の前にいる子どもたちを見ないで、運動会の時期がきたから運動会、というようなことでは、子どもが中心となる保育が組み立てられるでしょうか。
「子どもってなんだろう?」「子どもは、いまどんなことに興味を持っているんだろう?」「子どもは、どんな環境が好きなんだろう?」そういうことを基本にして、この季節に、この年令にはこういうことを、というようにして保育が構成されていくんだと思うんですね。そういう姿勢がなければ何をやっても無駄だと思います。なぜいまこれをやるのか、常に原点に立ち返らなければなりません。子どもに負担をかけてはいまいか、若い先生たちにとってどうかということもね。
それから、これからの世界を背負って立つ子どもたちをどう育てていけばいいのか、という問題意識をいつも抱えていることも重要です。わたしもまだまだですし、確固としたものはないですが、いつもその答えを求めています。
―そういう姿勢を、若い先生に伝えることも大事ですね。
井口:そうですね。大切ですが大変です。わたしも大学で非常勤講師として学生に関わっていますが、本当に子どものことを知っている大学の先生が少ないと感じています。知らなかったら、せめて何らかの努力をしてほしいと思います。結局、学生たちは、現場ではあまり役に立たないことを教わることになってしまう。少なくとも、中瀬幼稚園に入った保育者は学び直しです。保育という仕事は、特殊だと思います。どんなに知識があっても、子どもとのコミュニケーションがうまくとれないとだめですから。それも、大人が子どもに教えるというようなものではないコミュニケーションができないといけません。
―子どもに関わる人にとって大切な資質とはどんなことでしょうか。
井口:「子どもってなんだろう?」と常に考えていることはとても重要なことだと思います。子どもを理解しようとすることは人間を理解しようとすることだと思うんです。人間への興味がないとできない仕事だと思いますね。子どもに関わるということは、未来に責任を持つことでもありますから、情熱を持ってやらなければだめだと思います。若い先生たちの情熱を枯れさせないためにも、ここではまともなことをやっていたいと思っています。