「どうせ“ごめんなさい”って言わせるんだ!」はじめての場所、はじめての友達、子どもにとっては緊張を伴う環境の中で起きた2日目午前中の出来事。子ども同士のケンカの間に入った時、ある男の子が私に向かって発した言葉でした。「ここではそうしないって約束するよ」咄嗟に私はそう応えていました。男の子の身体の緊張が少し緩んだように感じました。話し合いの結果、雨天時に備えて張ってあった、大きめのテントの中でケンカの続きをすることになりました。私は少し離れて、二人の話し合いに立ち会っていました。
相手に人差し指を向けて、大きく身振り手振りを加えながら、または身体を少しでも大きく見せようと、胸を張るようにして主張する様子が見られました。結局、話し合いは平行線を辿り、一人が、「もういい!」と言って飛び出して行った後、もう一人も飛び出していきました。先に出て行った子は、他の子どもたちのいるエリアに行き、もう一人は、テントの近くで立ち尽くしていました。私が立ち尽くす子にゆっくり近づいていくと、「ごめんねっていおうかな」と小さな声で呟きました。「ごめんねっていいにいくの?」と返すと、こくんとうなずいて、さっきケンカしていた相手の子の近くに走っていきました。「ごめんね」のやり取りがあった後、他の子どもたちに混ざり合うようにして二人もまた遊びの中に入っていきました。
私はこのやりとりの中で、子どもが大人を諦めようとしているように感じました。諦めなければ、自分を守ることができない、そう感じているのではないかと思いました。それはケンカをした子どもたちだけではなく、ここに集う一人一人の中に、大きさは違っても同じようにあるのではないか。そう思いました。
大人は、悪気なく、むしろ「この場を収めなければ」という善意で子どもの行動を制限したり、何かをさせたりするために行動します。そして、「この場を収める」こと自体、世間的に正しいことだったりします。大人も子育ての中で、世間の目にさらされ、窮屈な思いをしながら、日々をなんとかやりくりしている現実があります。大人も苦しく、子どもも苦しい。誰が悪いわけでもない。ただただ積み重なった時間の痕跡を見ているような、そんな気持ちになりました。
こどもプログラムでは、森のようちえん「ぴっぴ」の保育者である本城慎之介さんにリーダーになっていただき、自然との間で斬り結ばれた、たっぷりとした「こどもの時間」を過ごすことができました。保育の内容については、初日最初のアクティビティだけを設定し、後は集まるこどもたちによってフレキシブルにと1日ごとに保育者で集まり話し合いながら、翌日の流れを考えていくことにしました。中でも、意識したのは、こどもが自分の関心に沿って過ごし方を選べるように配慮した環境設定です。食事が屋外でつくられている状況をつくることや、テントとタープ合わせて、3カ所に居場所を用意し、時間と空間の許容範囲をできるだけ広くとることで、可能になる自由を実感しました。天候も含めてあらゆる状況に対応できるようにと、テントやタープ、屋外での炊事のためのストーブなど様々な備品を使用しましたが、これも本城さん自らワゴン車いっぱいに私物を積み込んで来てくださったことで、屋外での活動を成り立たせることができました。
保育者には、鶴岡市にある三瀬保育園の先生方にも多大なるご協力をいただき、子ども17名に対し、大人10名という体制で臨むことができました。準備期間、保育者のチームビルディングのため、6月と8月の二回にわたって相互理解を深めるワークショップを行いながら、準備を重ねてきました。これまで育ててきた子ども観・保育観を共有しながら、信頼できるチームをつくることを第一に考えました。
また、こどもの年齢層が1歳児と5,6歳児、大きく2つの年齢層の子どもたちに分かれたことも、今回のキャンプの特徴でした。まだ言葉による意思疎通ができない赤ちゃんとともに寝泊りする中で、赤ちゃんに対して可愛いな、お世話したいな、という気持ちが大きい子たちの間に出てきました。2日目の夕食の時間に、そうした気持ちの変化、赤ちゃんに寄り添おうとする子どもたちの気持ちを感じられた瞬間がありました。
1歳になったばかりの赤ちゃんがお父さんの膝の上に座って、大きな声で「あーあーあー!」と声をあげたら、その声に即座に子どもたちが反応し、一斉に「あーあーあー!」とレスポンスしました。それにまた返答するように、赤ちゃんが声を出すと、より一層大きな声で子どもたちがレスポンスする、というシーンがありました。
こどもたちが、ここにいるみんなを、またこの場自体を祝福してくれているように思いました。そしてまた、自由で満ち足りた気分であることの表明のようにも思えました。「ぼくたちは、ここにいるよ」「ぼくたち自身を主人公に、ここにいるよ」と。
ペアレンティング・キャンプ2016
こどもプログラムをふりかえって
遠藤 綾