4.自分との約束
―楽天の副社長を辞められて、教育に軸足を移されることを決められたきっかけについて教えて下さい。
本城:楽天を辞めたのは、単純に30歳になったからです。三木谷(浩史)さんが30歳で日本興業銀行をやめているので、自分も30歳になったら独立するということは、自分との約束として決めていたことでした。独立するにあたって、何をしようかなと考えた時に、経営者の役割っていろいろとあると思うんですけど、その大きな役割のひとつに人を育てるということがあって、それを社会に置き換えてみると、教育だなと思ったわけです。難しい仕事だけど、楽しそうだし、意義があると思って、教育に携わっていこうと決めました。
―楽天を辞められた後、33歳の時に、民間人採用の(当時)最年少で、横浜市立東山田中学校の校長に就任されましたが、公教育の現場へ入られてどんなことを感じられましたか?
本城:すごくおもしろかったですね。それまでは私学の教育現場に携わることもあったのですが、やはり公教育が大切だと実感しました。現場の先生たちには助けてもらいましたし、まわりの校長先生にもたくさんのことを教えていただきました。とても充実していたので、もう一度機会があるとしたら、やりたいですね。
―2年で退職された理由を教えて下さい。
本城:就任してすぐの時期にあった修学旅行で、夜、部屋で先生たちとビールを飲んだことが、その後に公になったんですね。擁護の声もありましたが、横浜市のルールでは禁止されているので、だめなものはだめなんです。そして、その翌年の修学旅行では、生徒が飲酒してしまったんです。その後、飲酒はだめだと生徒たちに指導しなければならないわけですよ。でも、その前の年は自分が飲んでいるわけだから、自信を持って伝えることができない。自分の言葉がすごく軽く感じられたし、自分のことを棚にあげることはできなくて、退職するという選択肢を選びました。その経験は、自分にとって、とても大きな出来事でしたね。
―これから挑戦してみたいことがあれば、教えてください。
本城:いつ頃になるかはわかりませんが、小学生向けの寮をやってみたいと思っています。考えているのは、全国各地から集まってきて寮生活をするというかたちではなくて、軽井沢に住んでいる子どもたちのための寮で、一ヶ月のうちの一週間だけ過ごす場なんです。そうすると、一年の4分の一は寮で生活を共にすることになるんですけど、そこで得られる子ども同士の結びつきは、とても濃いものになると思います。効果がはっきりと現れるものではないけれど、子どもたちをタフにしてくれる経験になると思います。
―「タフ」になるというのは、どういう状態をイメージされていますか?
本城:いっぱい怪我できる、失敗できるっていうことですかね。けがを恐れない、失敗を恐れたりしないで、どんどんいろんなことができることが大事だと思っています。自己肯定感を持てない子どもたちが増えていると言われますけど、自己肯定感を持つためには、失敗したとしても、助けてくれたり慕ってくれる仲間がいる、と思えることがとても大事だと思っています。誰だって、しっかりと寄り添われて、安心することができたらうれしいですよね。この人がいてくれてうれしいとか、安心できるとか、そういう感覚の積み重ねが、その人自身を太いものにしていくような気がします。