5. 何をするかより誰とするか
―子どもを尊重するという態度を支えているのは、その人の子ども観だと思うんですが、どんな存在として子どもを捉えていけばいいのでしょう。
松本:子どもを「〜ができない」存在として捉えるのではなくて、「〜ができる」存在として捉えることが最も大切なことだと思います。そんなふうに大人から信じられている子どもは、周囲に対する信頼感を持てるんじゃないかと思うんですよね。そういう子どもの捉え方をできるだけたくさんの人たちと共有することが、子どもの環境を変えていくし、社会全体を変えていくことにもつながっていくと思っています。
―園についての文章の中に「まちの保育園の教育・保育の本質は、こどもたちのために、おとなたちがなす毎日の対話の中にある」と書かれていますね。この「対話」の重要性についてもう少し聞かせていただけますか。
松本:そもそも教育や保育というのは、子どもの“らしさ”と、理想の社会・人間像は何か、というものから,組み立てていくものと思います。理想の社会・人間像は、特権的な誰かが決めるものでなく、社会を構成するあらゆる立場、考え、価値観の人が共に見出していくべきものでしょう。そうなると、理想の社会・人間像に対しての決定的な答えはすぐには出ないから、むしろ答えを急ぐのではなく、“開かれた問い”にして社会的な対話を成していく、その対話の中にこそ保育・教育の本質があるように思います。
対話は自分の話をし、また相手の話を聞きますが、聞くとはそれだけ相手に自分の時間を捧げることであって、相手を尊重し信じていないと満足な対話にはならない。教育は、何をするかより、誰とするかの方が大事なのではないかと思うことがありますが、尊重し信じ合う関係づくりの上でも対話はとても有用と感じます。
―子どもとの対話は、大人と違って難しい面もあると思うんですが。
松本:子どもに対してももちろん同じ姿勢であるべきで、相手を尊重し信じて耳を傾ける。信じられているとわかれば、自分の本心を語りやすくなりますね。そうやって心を開ける間柄になれるといいなと思います。対話の方法については、日々子どもと接しながら、あれはどうだったかこれはどうだったか、ということを積み重ねていく中で、なんとなく身に染みてくるものなんじゃないかと思っています。