3. 夢のある仕事
―幼児教育の枠組みだけ見ても、日本は特殊な構造をしていますよね。
松本:そうですね。世界では、乳児保育所と幼児学校というふうに年齢で分かれているところが多いと思うんですけど、日本は戦後孤児を見ていくというところで数が増えてきた保育園、未就学児のための学校である幼稚園というふうに、同じ3,4,5歳の子どもたちが通う施設に選択肢があります。保育園と幼稚園は、大胆な言い方をすれば、社会的なニーズからすると預かり時間の違いだけなんですよね。
でも、それは子どもの生育環境を考えての整備じゃない気がする。国としても統合したいと考えているけれど、なかなか変えられない。まずは、そこに違和感がありました。国家として幼児教育のグランドデザインをしないとまずいんじゃないか、というのが僕の最初の問題意識なんです。 幼児教育をしっかりしていくことで得られる、経済的、文化的、社会的価値があるわけです。でも、いまは待機児童という問題があまりにも大きくて、幼児教育のグランドデザインに対して保育施設数を増やす“量(数)のべクトル”ばかりが働いている。しかし、それと同時に総合的に子どもの生育環境を、“質のベクトル”も働かせながらよりよい方向へ推進していく大きな流れをつくらなければならないと思うんです。それは理想を見ながらも、あくまで実践的に見出してゆくべきものと考えているので、まずこうやって現場でしっかりやっていくしかないんじゃないかなと思っています。
―そもそも、なぜ幼児教育の世界に興味を持たれたんですか?
松本:学生の時にひょんなことから、児童養護施設でボランティアをすることになったんです。そこで出会った子どもたちが毎日を大切に生きていて、すごくキラキラして見えたんですね。ハッとさせられたし、子どもってすごいなと思ったんです。 自分の原体験を振り返ってみると、僕は多摩ニュータウンに育ったんですけど、当時そこにはいろんな年齢の子どもたちがいて、子どもの社会があったんですね。あの環境が自分にとってとてもよかったし、子ども時代が今の自分を支えてくれていると思うんです。自分と同じように子ども時代に支えられている大人がたくさんいるとしたら、子どものための場所をつくる仕事って夢があるなと思ったんです。そういう夢からはじまったんですけど、いろいろ調べていくと、幼稚園と保育園の問題にぶちあたったわけです。これは、大人の都合であって子どものためじゃないぞ。これはまずい、なんとかしないといけないと思って、省庁の人とか保育園の人とか、いろんな人にインタビューをしていったんです。そういう中で、幼児教育のグランドデザインをするための事例をつくりたいと思うようになりました。それが10年前のことです。