2. 現在進行形のあり方
―ボランティアのコーディネートや地域の人たちとの接点をつくるために担当者を置いているんですか。
松本:その両方をアトリエリスタ1が担当しています。
―アトリエリスタの役割をもう少し教えてください。
松本:教師に空間の作り方や使い方など、さまざまなインスピレーションを与えたり、子どもとどんな活動をしていったらいいのかということも共に考えます。教室だけだと発想しえなかったことを実現していくための役割を担っています。
―スタッフ構成を教えてください。
松本:各クラスに平均して3名くらいの教師と全体を見る教育主事がいます。全員がペタゴジスタ2の役割を担えるように研修や教師間の共有の時間を計画的に実施しています。
―どんな研修をされているんですか。
松本:外部講師を呼んだり、自分たちでケーススタディを発表したり、いろいろです。子どもにとって大切な知識は、教師だけで抱えているのもおかしいので、保護者とも共有しています。保護者との共有は月一回、教師への研修は毎週行っていく予定です。
―レッジョ・エミリア教育3をとりいれていらっしゃいますが、他にいろんな教育法がある中で、どうしてレッジョだったんですか。
松本:幼児教育のいろんな方法論を学んでいくと、アプローチ主義に陥ってしまうというか、手段が目的化してしまうような感覚があったんですね。それで、10年前にワタリウム美術館で開催された展覧会4でレッジョ・アプローチに出会った時に衝撃を受けたんです。教育はみんなのものである、という考え方、現在進行形のあり方に強く共感しました。
―レッジョ・エミリアとの関係はどのようにしてつくられたんですか?
松本:視察ツアーはあるんですけど、行っても関係をつなぐというところまではいかないんですね。どうやったらつながれるんだろうってずっと模索していたんですが、6年前くらいに、友人からレッジョの建築にも関わったイタリアで活躍されている建築家の方を紹介してもらったんです。その方につないでいただいたことが大きかったです。普通は、ローリス・マラグッツィセンター5を説明して終わってしまうんですけど、もう少し深い付き合いをしたいと思っていたから、現場を見せて欲しいと話したんです。そしたら、ちょっと難しいなという感じで濁されたんですね。でも、そこで引き下がらずに自分の想いを伝えたら「日本人はすぐにマニュアルをくれと言ってくるけど、おまえは違う。レッジョの思想を理解してる」って共感してくれて、現場も見せてもらえることになったんです。結局、その年に二回訪問して、いろんな現場を視察することができました。
- 芸術教師。子どもたちの創造的プロジェクトをプラン、実践するレッジョ独自のシステム ↩
- 教育学専門家。教育指導主事的な役割を担う ↩
- 北イタリアの小都市レッジョエミリア市(Reggio Emilia)で発展した前衛的な教育実践と学びの共同体。こどもの可能性を引き出すことに街ぐるみで取組むことを特色とし、90年代にアメリカ版ニューズウィーク誌に取りあげられたのち世界的な注目を集めた。 21世紀の教育のあり方として注目され、世界各国に広まっている ↩
- 「子どもたちの100の言葉」展(2001年) ↩
- レッジョ・エミリア教育をつくりあげた教育実践家、ローリス・マラグッツィ(1920-1994)を記念してつくられた国際センター ↩