#013 山田茂雄さん

#013 山田茂雄さん

人と自然のつなぎ手として

#013 山田茂雄さん

「調布市に東京と思えないほど気持ちのいいスペースがある」そう友人から教えてもらい、はじめて「森のテラス」を訪れたのは、2011年の夏のことでした。インターネット上だけではなく、子どもをテーマにした対話の会やドキュメンタリー映画の上映会を開きたいと、そのための場所を探していました。せっかくならば、子どもと一緒に行きたくなるような気持ちのよいところがいい。抱っこ紐の中で眠る我が子を連れて、辿り着いた「森のテラス」。その空間に足を踏み入れた瞬間に、探していた場所に出会えたと思いました。
それから、「森のテラス」をお借りして子どものカタチ研究会と称した対話の会を重ねる中で、オーナーの山田茂雄さんが子どもたちのおやつにと、美味しいさつまいもをふるまってくださったことがありました。そして、その「さつまいも」をきっかけに、秋田にあるもうひとつの「森のテラス」の存在を知ることになったのです。
造園家として日本各地の庭園を手がけられてきた山田さんが、秋田で新しいプロジェクトを自ら起こすに至ったのはなぜなのか―。人と自然とを結ぶプロフェッショナルだからこそ見えている現代と未来の風景について、たっぷりとお話を伺いました。

1.子どもを育てるように

110621_moritera_slide_017

-秋田 森のテラスについて、まずお話を伺いたいのですが、どんな場所なのか教えていただけますか?

山田:13年前、思い描く理想の風景をかたちにしたいと思い立って、土地を探し始めた時、ふるさとである秋田に自然と足が向かったんです。秋田内陸線の桂瀬駅から車で5分ほどいったところにある、上羽立と下羽立というふたつの集落に挟まれた土地に出会ってから、農業生産法人を立ち上げて、農地を取得をすることからはじめました。少しずつ土地を広げて、いまでは、楢岱山の東側の斜面と、麓に広がる田畑をあわせて26ヘクタールの広さになりました。

園内には、デッキの小道でつながった28の大小さまざまなテラスを設けています。田んぼ、畑、ため池、森へとつづくデッキとテラスがここの風景をつくる骨格となっています。それから、ため池のそばには、木造の蔵と厠を建てました。蔵では、大勢で食事したり、ピアノもあるので音楽コンサートを開催したり、イベントや展示をしたりと、思い思いに過ごすことができます。

蔵での食事風景

蔵での食事風景

-山も含めて土地を取得されたのは、水を意識してのことですか?

山田:どんなすばらしい風景もその根底には水が大きな役割を果たしていますから。山の分水嶺一帯を所有し管理することで、水の環境を整えられます。水は、広葉樹が拡がる頂上から中腹の針葉樹と広葉樹の混合林、麓の針葉樹林まで下って、ため池や田んぼへ注ぎ、巡り巡って、阿仁川へと流れ、海に向かいます。
日本の多くの田んぼは、ポンプで水を汲み上げて耕作していますが、秋にはモーターの電源が切られて、水の流れは止まります。それでは、水が渇れて、生き物のバランスも崩れてしまうんですよね。ここでは、適度に山の手入れもしながら、よどみなく清らかな水が流れるように気を配っています。そのおかげで、混じりけのない水で農薬を使わずに作物を育てることができていると思います。敷地全体の環境のバランス、生態系を守りながら、景観的にも美しく保っていくことができたらと思っています。

110707_10_moritera_0068

-自由に見学することができるんですか?

山田:年中無休、見学自由です。森のテラスから、車で6〜7分のところに「番人小屋」と呼んでいる事務所兼宿泊地もありますから、問い合わせていただければ宿泊することもできます。

-民宿としては運営していないんですよね。

山田:民宿にしてしまうと、お互いにすごく気を遣うでしょ。そうじゃなくて、自分たちでどうやって過ごすのか想像してほしい。どうやってここで過ごそうか、考えてくれれば、周りに応える環境はあるからね。うちのいいところは作業員の人たちが地元の農家の人だから、ただ自然を見て過ごすというのではなくて、農家の人たちを手伝ったり、やることはたくさんあるからね。生活があって、その中で共に過ごす、お客さんと宿主という関係ではなくて、共にその場に居合わせるような関係性がつくれたらと思っているんです。東京 森のテラスも同じ考え方でずっと運営してきました。そのためには、あんまり人が増えすぎると、じっくり考えられなくなるから、ほどほどでいいと思ってます。

-ご自身で場づくりをすることに至った理由を教えて下さい。

山田:造園家として、日本全国にたくさんの庭をつくってきましたが、庭は商品の一部として扱われて、季節や年月が経つとまた新しくされてしまう。命ある植物を扱いながら、商品としての庭はすぐに壊される。45歳頃からそういう仕事から次第に気持ちが離れていきました。心から愛情の込められない仕事をしていては、一生ものの庭などできない。自分の生涯を通して、目をかけ、手をかけられるような庭をつくりたいと思うようになったんです。
本来、庭との向き合い方っていうのは、子どもを育てることと同じ次元で考えるべきだと思うんですね。子どもを“お守(も)り”するみたいに、風景を“お守(も)り”する。そうした生き方を自分自身が実践したいと。なので、これは生き方の問題なんだと思います。

たくさんの生き物が健全な姿でいられる環境が自分のふるさとにあること。しかも、そこでおいしいものがとれて、食べられる。人にたずねてきてもらえて、ゆっくりしてもらえて、共に語り合える。そういうことの中にこそ、豊かさがあるんじゃないかと思うんです。僕は造園のことしかできないし、考えられないけれど、その中でできることをやってみようと。

秋田森のテラスには、ゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタルの群れをなして舞う様子を見ることができる。

秋田森のテラスには、ゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタルの群れをなして舞う様子を見ることができる。

プロフィール

山田 茂雄(やまだ しげお)
1972年東京農業大学農業工学科卒業。造園事務所勤務を経て2001年、有限会社山田茂雄造園事務所を設立、「東京 森のテラス」オープン。2008年5月「秋田 森のテラス」オープン。
www.moritera.com

Index

1.子どもを育てるように
2.お守りから管理へ
3.育てたものを食べる
4.手の届く範囲で生きる


インタビュー日:2013.2.28 @ 東京 森のテラス
インタビュアー:遠藤 綾 / 写真:若林勇人、片岡陽太(秋田森のテラス写真)

COMMENT ON FACEBOOK

最近のお知らせ/ブログ