# 014 深津高子さん

5.私は宇宙に住んでいます

-難民キャンプでの支援活動、モンテッソーリ園の教師、お父さんお母さんにモンテッソーリ教育を伝える仕事と、ドラスティックな変化ですね。

深津:私の中ではすごく一本線。根底にあるのはずっと変わらず「平和」です。難民キャンプでの援助の仕方に悩み「これじゃない」、モンテッソーリ園でだんだん視野が狭まってきたことを感じ「これじゃない」、そして平和への登り口としてたどり着いたのが、モンテッソーリ教育を伝える活動「おうちでできるモンテッソーリ」でした。
戦禍にいた子どもたちの多くは、生まれて最初の時期に、人間の一番醜い部分を見ています。憎しみ合い。殺し合い。殺されない為の知恵として嘘をつく身近な大人。また子どもたち自身も、ごく小さい時からスパイとして教育されている地域もあります。ですから保育園から平和の練習をしないと「本当は人間って優しいよ、いい大人もたくさんいるよ」ということを学ぶことができません。
“腹が立ったらズドン!”という思考パターンを子どもたちが身につけると、また争いは繰り返されます。そういう意味で紛争地域における保育活動の役割と責任は大きいです。おやつを分かち合ったり、順番を待ったりという平和な生き方を紹介することが非常に重要だと思います。

-深津さんの平和への関心はどこから来ていると思われていますか?

深津:アメリカに連れていかれたことです。私は親の仕事の都合で15歳の時に渡米しました。親が日本の商社に勤めていたこともあってNYでは何不自由なく暮らしていました。70年代のNYは、オレンジジュースはおいしいし、まだ日本になかったマクドナルドもある、車も大きくて便利だし、9月の美術館はとても美しい。でも心の中に「こればっかりが世界じゃないだろう?」という気持ちがものすごくありました。
ひとつの光景だけを見て世界全体だと思えなくて、どこかでバランスを取ろうとしたのだと思います。大人になった時、アメリカとは全く逆の発展途上国を自分で選んで、行きました。そして途上国の状況を見た時に「やっぱりそうか」と思いました。先進国だけが世界ではないし、もっと言えば、人間の世界だけが世界ではない。人間は、いろんな生物と共に生態系の中で生かされている。こういう“持ちつ持たれつ“の感覚が究極的には平和だと思っています。
子どもたちとピースボートに乗っていて、本当に素晴らしいと感じるのは、子どもが旅を通じて「みんな違うけれどみんな同じ」ということを感じ取れることです。「みんな言葉は違うけれど、みんな挨拶をするね」「みんな顔は違うけれど、どこの国にもおばあちゃんっているね」「どこの街も見た目は違うけれど、どこの街にもおうちがあるね」多様性と普遍的な部分をまるごと子どもは感じ取り、吸収します。私は子どもたちのこういう感覚に未来への希望を感じますし、やはり「平和は子どもから始まる」と思います。

ピースボート旅の途中で、ギリシャにて撮影
ピースボート旅の途中で、ギリシャにて撮影

府中のモンテッソーリ園に勤めていた頃「府中から宇宙へ!」とずっと言ってました。卒園児を増やして、親にもモンテッソーリ教育を伝えて、園の周りから、地元の商店街から、府中から、「平和を広めるんだ!」と思っていました。残念ながらカフェスロー1が引っ越すことになって今は国分寺に住んでいますが、今は国分寺から平和を発信しています。地域コミュニティから平和を作ることに関心があるんです。

-ボーリングの一番ピンみたいなものがあるわけではなく、近いところからじわじわ世の中を変えるということですか?

-そうです。私はモンテッソーリ教育の本当の考え方をたくさんの人に伝え、知的に自立し喜びにあふれた子どもを増やしていくことが、未来への唯一の希望だと思っています。家庭や地域での小さな工夫の積み重ねが、子育てや保育観を変え、それが広まっていけば社会が変わると信じています。

カフェスローの店内
カフェスローの店内
  1. 東京都国分寺市にある深津さんのパートナー吉岡さんが主宰するカフェ。オーガニックフード、フェアトレード商品を使った、スロービジネスなカフェ。情報交換や表現の場として、機能している。毎週金曜の夜は、照明をキャンドルに変えた「暗闇カフェ」が開かれるなど様々なイベントも開催されている

index

  1. 生命が育つお手伝い
  2. 文化を手渡す仕事
  3. 幸せに生きるヒント“知的自立”
  4. あるがままの世界から学ぶ
  5. 私は宇宙に住んでいます

 

Profile

深津高子(ふかつたかこ)
保育アドバイザー。国際モンテッソーリ協会(AMI)公認教師、同協会元理事。

教師養成コースの通訳や講演などを通して、モンテッソーリ教育の普及に関わるほか、一般社団法人AMI友の会NIPPON副代表、ピースボート洋上『子どもの家』アドバイザーも務める。