#011 伊垣尚人さん

4.20年後、必要な力

-伊垣さんご自身の学びが、クラスづくりの随所に活かされていますね。新しいことを取り入れることに大変さは感じませんか?

伊垣:自分で試行錯誤しながらつくっていく方がおもしろいです。僕が子どもだったら、学びを楽しんでいる先生に教えてもらいたいと思うから、教師自身が楽しむことは、とても大事なことだと思っています。子どもたちにも、なにより今を楽しんでほしい。楽しいと思える時に、人は伸びると思うんです。だから、自分で考えてやってみて、結果をふりかえって、もう一度試してみて、再度ふりかえる。そういう学びのサイクルを身につけられるようにしていきたいんです。

-子どもたち自身で、学びのサイクルを身につけられれば、その後もずっと学びは続いていくわけですね。

伊垣:そうですね。せっかく覚えた知識が新たに更新されていくことも十分に起こりうるわけですから、知識のストックを増やすよりも、知識を集め、構成し、編集していく術を獲得していく方が大事ですよね。例えば、漢字を覚えていくプロセスでいうと、漢字を書いて、テストして、覚えられているかどうか自分で確認していくことで、大体自分は何回書いたら覚えられるとか、声を出したほうが覚えやすいとか、自分なりの方法を認知することはとても大切だと思います。自分の特徴を掴んでいることは、様々な場面で役に立つと思います。

-日本の教育の優れている点は、どんなところにあると思いますか?

伊垣:日本の教育は、世界の中では評価は高いと思います。OECDの2009年の調査でも、上位にランクインしています。北海道から沖縄まで、同じように学ぶことができるのは日本の教育の強みだと思うんですけど、やりすぎると画一的になりすぎてしまうので、いまある強みを活かしながら視野を広げていく必要はあると思います。
学校をつくりたいという話は、時々出てきたりしますけど、もっと戦略的に行わないと一部の子どもたちだけが対象となり、埋もれていってしまう。だから公教育がやっぱり大事なんですよね。ここ2年で、新しい教育手法が、草の根的にぐぐっと拡がってきている実感があるんです。いま、日本の教育は、大きな転換期を迎えつつあると思います。それをさらに、加速させていくためには、若手の先生たちが挑戦してみたいと思った時に、変なプレッシャーを感じることなく、挑戦できる環境が教育現場にできていくといいと思います。

震災後、いわゆる「勉強」ができることが、豊かに生きることじゃないってことに、子どもも大人も気づきはじめているように思います。そうした新しい価値観に、もっと多方面から光をあてていかなければいけないんじゃないでしょうか。子どもたちがこれから20年経った後に、どんな力が必要とされるのか。そしてその力をつけていくために、どんな学びをすべきなのかを考えていく必要があると思います。

-これまでのやり方からなかなか離れられない先生も多いと思うのですが、一歩踏み出すためには何が必要なんでしょうか。

伊垣:そうですね。「すごいと思うけど私にはできません」と言われてしまうこともあります。「こうしなくちゃいけない」という自主規制というか、既成概念が強いんだと思います。でも、そうしたことをふりきってでも、やるときはやらなきゃいけないと思うんですよね。どんな状況でも、その時考えられる最善の方法を見つけていけばいいわけです。目指しているのは、一人ひとりの子どもが幸せになることですから、そのことを忘れないでいれば、道は拓けていくのではないでしょうか。
教育にできることは、まだまだたくさんあります。でも、もうまったなしです。日本の教育は、これから10年でもっとおもしろくなると思いますよ。

-今日は、ありがとうございました。

Profile

伊垣 尚人(いがき なおと)1977年生まれ。東京都出身。埼玉県狭山市立富士見小学校教諭。YMCAのキャンプリーダーや不登校児童・生徒の学校復帰の支援活動などを通じて学校現場に興味を持ち、通信教育で教職の道へ。NPO法人Educational Future Center理事、西脇KAI代表幹事、Learning Association of Facilitative Teachers主催、日本イエナプラン教育協会会員。著書に『子どもの力を引き出すクラス・ルールの作り方』『子どもの力を引き出す自主学習ノートの作り方』『子どもの力を引き出す自主学習ノート 実践編』ノートは友だち!1〜3』『プロジェクトアドベンチャーでつくるとっても楽しいクラス』がある。