5. イメージする力を取り戻す
― 東北に移住して、原田さん自身の暮らし方はどんなふうに変化しましたか。
原田:食べること、命を維持していくことをこんなに考えたのは、はじめての経験だったと思います。食べ物にすごく気をつけて、最初は一生懸命、産地を見ながら選んでいたんですけど、無農薬の野菜を食べたら、ものすごくおいしかったんですよね。それから、肌につけるもの、身体に取り込むものは何がいいのか、周りの人がいろいろ教えてくれたことを実践しています。そこで気がついたのは、暮らしに本当に必要なもの以外をそぎ落としていくと、物理的に身軽になるだけでなくて、気持ちも楽になるということでした。
― 放射能との付き合い方は、1年以上経ってみてどんなふうに変化していますか。
原田:最初は放射線量(何シーベルトとか何ベクレルとか)をすごく気にしてましたけど、やってもやっても終わりがないんですよね。最近、一緒に活動している方たちとよく話しているのは、線量がどうかということをよりも自分自身がどう生きていくのか、ということについてなんです。身体感覚や言葉も含めて、どんな自分でいるのか、ということ。いま起きていることは、自分自身の問題だと感じる。だから最終的には、わたしがどう生きるかっていうことなんだなってことにたどり着いたんです。福島じゃなくても、どこにいてもそうですよね。どこだって問題はあるから。
― 福島の活動を経て、いま大切だと思われていることを教えて下さい。
原田:放射能は見えない臭わない感じないからこそ、言いくるめたりして何もなかったようにできてしまう。だからこそ、放射能にイメージをつけてみる。見えないものや、わからないものを感じようとしてみる、そういう感覚を捨てないことが大切なのかな、と思います。自分の身体やこころに耳をすますというか、そういうことを意識するだけでいろんなことが変わっていくように思います。
かつては、目に見えないものをイメージする力を持っていたのに、いまはここにあるものがすべてになってしまっている。教育や生活の場に想像する力、見えないものを見たり感じたりする力を取り戻すことが、自分自身にとってもそうですが、社会全体にとってもますます重要になってくるのではないかと感じています。
―今日は、本当にありがとうございました。