上遠恵子さん講演再録「いのち」に軸足を置いて

3.「センス・オブ・ワンダー」という“信念”

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この本が社会に出たことで、ものすごく大きな影響を社会に与えました。それ(化学物質)を生産することによって利益を得てきた化学産業はもう、怒りくるって、「レイチェル・カーソンの言っていることはうそだ、非科学的だ、ヒステリーだ」と。それから、東西冷戦のさなかでしたから、「共産主義の、回し者だ」とか。「独身なのになんで遺伝のことを心配するのだ」などと発言をする議員までいていろいろな誹謗がありました。
そうした流れに終止符を打ち、カーソンが言っていることは正しいと言ってくれたのは、ちょうどそのころの大統領であるジョン・F・ケネディでした。ケネディが諮問委員会を作らせて、彼女が言っていることは正しいし、もっと政府は市民に対して情報を与えなければいけないという発言に達したのです。そのことに関しても、「彼女は原始時代に戻れと言っている」などと非難されたけれども、彼女は決してくじけなかった。声高に反論もしなかった。科学的な証拠に基づいて書いているから、自分が書いたことが正しいという自信があったのですね。
そしてもう一つ大切なことは、彼女にはセンス・オブ・ワンダーという感性があったということ。生命がどんなに大事なものかを小さい時から育んでいたことです。センス・オブ・ワンダーという感性に裏付けられた信念に支えられていたから、強烈な誹謗に対しても、くじけなかったのです。

Profile

上遠恵子
1929年生まれ。エッセイスト、レイチェル・カーソン日本協会会長。東京大学農学部農芸化学科研究室、社団法人日本農芸化学会、植物科学調節学会勤務を経て、88年レイチェル・カーソン日本協会を設立。訳書にレイチェル・カーソン著『センス・オブ・ワンダー』、『潮風の下で』、『海辺』などがある。