上遠恵子さん講演再録「いのち」に軸足を置いて

上遠恵子さん講演再録

「いのち」に軸足を置いて

『沈黙の春』で化学物質による環境破壊を訴え、世界中に大きな反響を巻き起こしたレイチェル・カーソン。彼女が姪の子ロジャーとすごした海辺での日々を著したエッセイである『センス・オブ・ワンダー』は、幼少期に人が自然と関わることで育まれる感性=センス・オブ・ワンダーの持つおおきな意味、そして大人と子どもがともに自然を感じるかけがえのないひとときの豊かさを記した名著として、日本でも広く知られる存在となっています。この作品を翻訳された方こそ、上遠恵子さんです。

現在、レイチェルのメッセージを国内に伝え、自然観察会などを開催する「レイチェル・カーソン日本協会」の会長も勤めておられる上遠さんによる、中瀬幼稚園での「お話し会」の様子を、ここに再録します。

1.正しく、そして豊かに

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おはようございます。
お庭のいろいろなところを見させていただいていて、遅くなってすみません。お待ちになりましたか?
さきほど、年少さんたちに会ったら、私の服についたヤブジラミの種を、「あ、草がついてるよ!」って、取ってくれました。それでみんなで「(ぼく、わたし)4歳!4歳!」って大合唱。「3歳!」っていう子もいましたね。だから私は「20倍―!」って言ったんですけれどね(会場笑)。
そんなわけで、かなりながく人間をやらせていただいているのですが、この『センス・オブ・ワンダー』の日本語訳が出版されたのは、1991年のことです。
アメリカで出版されたのは1965年ですが、日本で紹介されたのは1970年代くらい。でもなかなか、一冊の本として出ないでおりました。1991年に佑学社というところが出すことになってやっと、日本のお母様がたにこの本が日本語で読まれるようになりました。

この本を書いたレイチェル・カーソンと言う方は、1907年に生まれて、1964年に、56歳の若さでこの世を去りました。彼女はアメリカの海洋生物学者で、作家でした。ただし作家といっても、人生の半分以上はアメリカの公務員、魚類野生生物局というところに勤めている科学者であり、広報誌の執筆・編集をしてきました。ですから、彼女の作品はサイエンスと文学が融合した、いま「科学読み物」と言われるもののなかでも非常にすぐれた、詩情豊かであり、なおかつ科学的に正しいという作風でした。
作家としての代表的な作品として、単行本で出ているのは5冊。そのうちの3つは『潮風の下で』、『われらをめぐる海』、『海辺』という、海の作品です。海洋生物学者でしたからね。それらは皆、本当に、海のダイナミックで詩情豊かな姿を書いていて、3つともベストセラーになっています。
残り二つの作品のうち、一つはこれ(センス・オブ・ワンダー)。そして、もう一つは、いちばん社会にインパクトを与えた『沈黙の春』という本です。

Profile

上遠恵子
1929年生まれ。エッセイスト、レイチェル・カーソン日本協会会長。東京大学農学部農芸化学科研究室、社団法人日本農芸化学会、植物科学調節学会勤務を経て、88年レイチェル・カーソン日本協会を設立。訳書にレイチェル・カーソン著『センス・オブ・ワンダー』、『潮風の下で』、『海辺』などがある。