#004 荒井良二さん インタビュー
100年後の人たちのために
これまで自分で企画したものも含めて、荒井さんと子どもたちとのワークショップを何度も体験してきたのですが、その中で1度だけ、制作に夢中になっている荒井さんを見ていた子どもたちの何かが「パチン!」と切り替わる瞬間を目撃したことがあります。さっきまで筆を使って描いていた子どもたちが、突然、両手を使って(時には足や全身で)描きはじめる。「解放された」と一言で済ますこともできるかもしれない。でも、そんな単純なことではありませんでした。
あの瞬間、一体何が起きたのか。その疑問は、あれからずっと消えることはなく、「子ども」という存在について真剣に考えはじめるきっかけになりました。そして、その体験以降、荒井さんの絵本をひらくと、あの瞬間の身体感覚と出会うようになりました。荒井さんの絵本の扉をひらいて、その海にどぼんと飛び込むと、何かがたぐり寄せられ、わたしの中にいる「子どもたち」が騒がしくなるような気がするのです。
わたしにとって、とても大きな存在である荒井さんに、今回はじめてインタビューさせていただきました。「絵本デビュー20周年目を迎えられて」なんて言葉を発した自分が恥ずかしくなってしまうくらい、荒井さんの目はまっすぐに、100年後、200年後の未来を見つめていました。
1.子どもの時にだけ発揮できる力
—荒井さんは、子どもたちを対象にしたワークショップに熱心に取り組まれていますが、そのモチベーションはどんなところにあるのでしょうか?
荒井: ワークショップって、俺もわかんなくてやってるんだけどね。わかんないからやってるというか。
でも、子どもの時にだけ発揮できる力を確かめたいっていうのはあると思う。絵を描いたりしてると、そういう力のある子どもたちが、うらやましいわけよ。学習して培った技術じゃない力ってあると思うし、絵が好きだっていうのは、そういう力が最初からそこにあるからだと思う。好きな理由なんて、言葉で説明できないものだと思うんだ。
—それは、荒井さん自身の子ども時代の体験からきているのでしょうか?
荒井:そうだね。自分自身が子どもの頃から好きだったことに対する疑問をずっと持ってると思う。そういう力があるんだったら、押さえつけないで、解放してあげたらどうなんだろうって思うんだ。言葉では説明しきれないけど、そこにはなにかあるわけよ。
そういう力に従いたいだけなのに、大人になると、仕事である種のシステムに自分を組みいれていったりする。それで、そういう力がなかなか発揮できなかったりしていると思うんだ。でも、それは仕方ないよね。いろんな人が関わって、何かを成し遂げようとしているんだから。でも、何か自分で腑に落ちないところがあって。個展なり、イベントなり、自分でやればいいんだけど、でもそういうわけでもなくって。なんていうか、とにかく説明がつかないんだよ(笑)。最近、それを少しずつ解体してね。最新刊『モケモケ』は、そのひとつなんだ。