# 017 佐山圭子さん

# 017 佐山圭子さん

6.治癒という多様な道筋

―「処方される薬のなかには、(飲んでも飲まなくても)どちらでも良い薬がある」、というお話も、とても印象的でした。

私の友達で、あるとき子どもを連れて病院に行ったら「お薬出そうか?」って先生に聞かれたのよ、って、すごく憤慨している人がいて。「出すかどうかなんて先生の考えることなのに、ヤブ(医者)なの?って思った」、って私に訴えたんだけどね(笑)。それは違うのよ。先生の気持ちを言い換えると、「あなたのお子さんは、お薬飲んでもいいし、飲ませなくてもいい」ということ。でもあなたはお薬を飲ませたほうが安心なの、どっちなの、って、そういう意味なんだよって私は言ったの。わざわざ聞いてくれてるんだよ、って。そうしたら、「ああ、そういうことなんだ!」ってすごく納得してくれたんだけどね。
この病気にはこれを飲んでほしい、とか、溶連菌にはこの抗生物質とか、ある一定の疾患には必要と考えられる薬もあるんだけど、どっちでもいい薬もじつは結構あるのよね。痰切りとか、鼻の薬とか。風邪の薬なんて使うなっていう先生もいるし、咳や鼻は意味があって出してるんだということで、何も出さないっていう先生も何人もいて。じつは慣習的に、ニーズがあるから出していたっていうことが結構あるの。なにか症状があると(病院に)行かなきゃいけないって、お母さんは思って連れていく。そうすると処方されるから薬を飲ませる。風邪だから病院へいくっていう状況を作り出しているの。

―薬のなかには、実際にそれが効果があるかという検証が積み重なっていないものもある、ということでしょうか。

そういう主張している先生も、外来小児科学会の先生でも結構いるし、そうは言っても結構効くよね、って思って使っている先生もいるの、経験値的にね。だから、一概に否定もできないけれど、すごくエビデンスがあるわけでもないということは言えますね。

―「病を患う」って、どういうことなんだろう、「治っていく」って、どういうことなんだろう、と改めて考えます。治癒するということ、健康な状態に戻ることには、色々な道筋があるんですね。

たとえば抗生物質っていうのは、完璧に菌を殺す薬じゃないんです。ある程度菌をやっつければ、あとは人間の力で大丈夫、っていうこと。でも、抗生物質を使わなければ重症化して大変なことになる病気もまたいっぱいあるんです。だから、薬も医療もすごく大事。子どもの健康を守るうえで医療が大事な部分もすごくあるんだけれど、やっぱり最後は自分の力が必要で。

―そうした判断を、つい医療者任せにしているところがある。あるいは敬遠してしまう。

まず、知らないといけないと思う。医療のことや身体のことは、学んで理解しておかないとわからないことが結構あるの。でも、からだのしくみを知るための教育が、やっぱり少ない。女性の身体のしくみなどもそう。生理の周期とか、性的なこともそうだし、教わってないからとんちんかんなことをしていたり、避妊をきちんとできなかったり。正しい知識を身につけて、自分が健康に生きていくための力をつけるということがすごく大事だと感じています。心の健康や健全な人間関係の教育も足りないと思います。子ども時代からあれば、DV・デートDV・いじめにも気づきやすいですよね。
あとやっぱり、医者と患者の間には、言葉も通じ合わないような部分があるんだっていうのは、一旦認めたほうが良いと思う。医者が思い込んでる部分もあるし、患者も思い込んでいる部分がある。だからこそ、「こういうことを聞いたら悪いかな」、とか、距離を感じていると、溝はいつまでも埋まらないし、何より子どもを治すためにコミュニケーションをよくして、自分の気持ちをきちんと伝えることが大切だと思うんです。

―それがないからこそ、医療への不信感が募ってしまう、ということでしょうか。

いま、お母さんたちと話すようになって、医療への不信を持っている人が多いと感じます。医療への不信があって、自然に産めたじゃないっていう思いがあったりするところへ、予防接種などの間違った情報が入っちゃうと、それを払拭するのがすごく難しい。いい情報が入るか、間違った情報が入るかで大きく変わっていってしまって、あとの修正が難しい気がしますね。

―佐山先生がアプローチされているのは、まさにその「いい情報」を入れる部分。

私、二人目を産んだあと、納得して常勤医をやめて週に3回だけ小児科の外来と健診をしていた時期があったんだけれど、そのどちらでもお母さんから聞かれることがほぼ、同じなのね。病気のこととか、発達のこと、子どもの生活のこととか。何回も同じ話を繰り替えしていたので、講座にするといいのに、産んだ後こそ母親学級が必要だろうと思ってました。
その頃に、「知ろう小児医療守ろう子どもたちの会」に出会って、講師を担当することになり、私が伝えたいと思っていたことは、お母さんも知りたいことなんだっていうことがわかって、やっぱりこれを(伝えることを)やろうと決めました。
やっぱり人間の身体って、理屈で答えが出る部分が結構あるから。たとえば、人間の食道は背中側についているから、ただあおむけに寝かせていると吐き戻しが多かったり、胃が横隔膜を押して苦しくて赤ちゃんが泣いてしまうことが多いですよ、とか。赤ちゃんの足の動きは心臓を助けてるとか、水分が足りないとどうして脱水になるのか、とか。基本が分かればなんなく解決できることが、結構あるんです。あとは、ちょっとした技術ね。腱鞘炎にならない抱っこの仕方とか、赤ちゃんが泣き止みやすい安心できる抱き方とかね。これも、知ればすぐに実践してお母さんがラクになれる。知らなければ悩み続けてしまうかもしれない。だから、伝えたい。

―その思いが実現できるまで、11年温めていた?

そう、ずっとやりたかったんだけど、一時期は「このまま開業しないまま終わるかな?」と思った時期もあった。なかなか踏み出せなかったのだけれど、やっぱり悩みを抱えるお母さんたちともっと、通じ合いたいっていう気持ちがあったのね。楽しく、リラックスして話をしてもらいたいし、大丈夫って言ってあげたくて。

―今なら「大丈夫」が言えるということですね。

そうね、大丈夫って言ってあげたい。それを本当に言えるようになるまでに、時間はかかっちゃったかもしれないけれど。
私が尊敬する育児学の権威・今村栄一先生が「子どもは、診れば診るほど正常の幅が広がっていく」とおっしゃっていて、本当にその通りだと思います。狭い範囲で見ていると「異常なのかな?」と思える状況でも、長いスパンで見ていくと、あ、やっぱり「正常」の中に入ってきたね、心配なかったね、っていうことがほとんど。だから、情報を提供するのと同時に、長い目で見守っていくっていうこと、親子の思いに寄り添っていくという姿勢がすごく大事なんじゃないかなと思っています。子どもって、どんどん前を向いて育つものですからね。

―ありがとうございました。

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プロフィール

佐山圭子(さやまけいこ)
小児科医・ひだまりクリニック院長
和歌山県立医科大学卒業。国立国際医療研究センター、静岡県立こども病院、立正佼成会附属佼成病院、まつしま病院、都立広尾病院等を経て、2011年ひだまりクリニックを開業。現在は、子育てに関する会のほか、妊産婦や産後の母の心をケアするグリーフサポートの集いや、赤ちゃんを亡くされた家族の会(託児も可能)、家庭内のDVに関する講座等も行っている。
http://hidamariclinic.jimdo.com/

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