# 016 信友智子さん

# 016 信友智子さん

5.自分自身を問う

お産が落ち着いたら、休む間もなく朝食の支度にとりかかる。

お産が落ち着いたら、休む間もなく朝食の支度にとりかかる。

昨年2014年に、春日助産院を秋月に移転されましたが、その経緯を聞かせてください。

移転前には、福岡県内の助産院でのお産がおよそ年間300件で、春日助産院ではおよそ年間120件のお産を受けていました。妊婦健診は、一日に6人から8人で、どうしても流れ作業的にすすめないとどうにもならない数でしたし、お産自体も以前より一人ひとりに手がかかるようにもなってきていました。

具体的にはどのようなことでしょうか。

ここ数年、特に顕著に妊婦さんたちの体力に変化を感じます。妊娠するのが難しくなっているのと同じように、産むのも難しくなってきている。それに加えて、助産院での出産が変にブランド化してきてしまっているというか、ひとつのスタイルとして選択する人が増えてきた気がします。油物や添加物をたくさん摂取するような食生活を切り替えられないと、産後のおっぱいは乳腺炎になりやすくなり、母乳育児のハードルはあがります。春日助産院では、食事日記をつけてもらっていたんですが、いつまで経っても基本的なことを指導しつづけないといけない。そういう状況になっていくと、お産に向けて妊婦さんの生活が改善できているかどうかをスタッフが管理するようになっていくわけです。

でも、それは違うよねって。管理するんじゃなくて、深くその人に寄り添うことができれば解決できることもあるわけですから。お産の全てに私がつくことを前提としながら、これまでのシフト制から担当制に変更したいとスタッフ会議で提案したんです。でも、ほとんどの助産師はそのことに否定的でした。担当制は重い、と。だけど、助産師の仕事は、公私融合でやらないとできない仕事なんです。助産師自身が、その全人格をもって妊婦さんとの関係性をつくっていけば、お産に良い影響を与えますし、逆もまた然りです。スタッフの助産師たちにいつか開業して、巣立ってほしいという期待をもっていたのですが、なかなかそうはいかない現実を前に、これからどうしていくべきなのか考え始めました。

さまざまな状況が重なりあう中で、自分が目指す方向を見つめなおして、一人ひとりと、とことんつきあうお産がしたい、そのほうが自分らしいと思うようになって、春日助産院を一旦閉院して、養生処として秋月に拠点を移すことに決めました。この決定については、周りの方たちからお叱りを受けたし、OGの方たちにも少なからず動揺を与えてしまったと思います。私自身も随分迷ったし、引越しの間だってずっと迷っていました。でも、多くのお産を引き受けることはできなくなるけど、ずっと助産に携わり続けていくためにはこうするしかないと思ったんですね。

このままだと続けていけないという危機感があったということでしょうか。

開業助産師の先輩はたくさんいますけど、燃え尽きるようにして辞められたり、病気になってしまう方もいらっしゃいます。自分の身を削っていますから。春日助産院では、年間120のお産があって、その全てに私はつきますし、それは相当体力的にも大変なことなんです。これは、私自身が、助産を続けていくための選択でもあったと思います。

いま、この国でのお産の98.9%が医師のいる施設で行われていて、助産院・自宅でのお産は1%。マジョリティは病院での出産を選ぶのだから、助産院はなくなって、病院に統合されればいいという意見もあると思います。

確かにそう思う方もいるかもしれません。でも、産婆と呼ばれていた頃からこの国で受け継がれてきた「産」の文化や自分の身体に向き合って産むという、この世界がゼロになってしまっていいかというと、そうではないと思うんです。たとえ、1%の人しか選ばなかったとしても、選択肢があるのとないのとでは大違いです。マイノリティは、マイノリティとしてあり続けることが、マジョリティにとっても大事なんじゃないかと思うんです。

自然豊かな秋月で茅葺屋根のご自宅兼助産院というかたちで、再出発を選択されましたが、この環境を選ばれた理由を聞かせていただけますか。

これまでたくさんイベントや講演会などお産に関する活動をしてきましたが、どんなに大きな声を出しても産科医療を取り巻く状況はあまり変わりませんでした。いくら自然なお産を語っても、絵に描いた餅なんです。最終的には自分自身の暮らしがどうであるか、ということを問われるんじゃないかと思うんですね。だから、私自身が地に足をつけて、不便な暮らしを積極的に選んでいくことからはじめたかったんです。自然豊かな大地と土の匂いのする建物、その二つが織りなす環境が、産み出す力にも生まれる力にも作用してくれるんじゃないかと思ったんですね。それに、地に足がついている人が増えていけば、地味だけどそこからじわじわとひろがっていくと思うし、どんなに大きな声を出していくよりも着実なんじゃないでしょうか。

実際に暮らされてみて、どうですか。

不便だと協力しないと生活できないから、人と人とをより強く結びつけますね。心も身体もほどよく鍛えてくれるし、一つひとつに時間がかかるから、考える時間があって、思考も熟成していくのを感じています。自然の中で暮らしていくと微生物の力を借りて、人もいい具合に発酵していけるような気がしています。

プロフィール

信友智子(のぶともさとこ)
助産師・春日助産院院長

開業助産師の二女として育ち、大学で助産師の資格を取得。卒業後、神奈川県の北里大学医学部付属病院産科病棟に勤務。1984年からは福岡逓信病院産婦人科病棟に勤務する傍ら、春日助産院にも勤務。2年後に病院を退職。1998年、イギリスのテムズバリー大学助産学修士コースカリキュラム終了。2005年、春日助産院の2代目院長に就任。2014年、新たな助産院の展開を目指して、同県秋月に茅葺きの家を建て、自然豊かな環境で生命を迎える「春日助産院 秋月養生処」を開院。2011年、第33回母子保健奨励賞を受賞。

春日助産院HP

Index

  1. 誕生は日常
  2. 打ち砕かれる
  3. グレーゾーン
  4. 善き黒子たれ
  5. 自分自身を問う
  6. 魔法はひとつ

インタビュー日:2015.4.18 , 5.5@春日助産院 秋月養生処
インタビュアー:遠藤綾 /写真:1.4.5酒井咲帆 3.6西村隆彦

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