#015 伊藤保子さん

#015 伊藤保子さん

4.「それでよし」として明日を考える

-子どもを一人の人間として尊重する姿勢は、伊藤さんのお母さんから引き継がれたものだったんでしょうね。

伊藤:うーん、そうなのかな…。母は信念というよりも「女性として生きるな」って怨念を、おんぶお化けのように私に与えていたにすぎないと思うよ。

-どういうことでしょう?

伊藤:母は戦争で本当につらい体験をして、戦争はもう本当に嫌だと思っていた。だけど戦争当時は、戦争がいいとか悪いとかそういう考えもなく、流れで戦争になっていってしまった。だから母は、そういう風潮に流されてしまったことに対する“怨念”みたいなものがあったんじゃないかな。世が世なら反戦運動とかしたのかもしれないけれど、あの時代の母の環境では、そういう怨念を子どもに託すしかなかったと思うの。だから母は私に自立していくことをすすめてはくれたけれど、かなり高圧的というか…そういう関係だった。まあ、今はちょっとお茶目になって生きているけれどね(笑)
みんな信じてくれないけれど、私物ごころついた時からずっと同じ夢を見ていたの。最近は見ないけれど、それこそ1週間に1回くらい見てた。崖から落っこちてもう地面に追突するって時に「あなたは飛べるのよ」って声がして、私空を飛ぶの。それはそれは気持ち良い感覚ですーっと飛ぶ。大学で心理学を学んで知ったんだけど、空を飛ぶ夢って「抑圧から逃れたい」「自分の力で生きたい」って思っている人が見る典型的な夢らしい。それを知った時に私分かったの。母の「女でも自立して頑張れ」という圧力に対して、私は「自分で決めたい!」と思っていた。母の「自立しろ」の怨念ではなく、私は本当に自立したかったんだって分かった。それ以来、何かあってもう駄目かなって思った時によみがえるの。昔、子どもが心臓が悪くて死ぬかもしれないってことがあった時、病院で一晩だけ泣いたけれど、でも「私飛べるんだ!大丈夫」って思えた。都合いいでしょう?(笑)
でもこういう感覚を、八方ふさがりになっているお母さんたちに伝えたい。お母さんたちの相談を受けていると、お母さんたちが、自分で自分をがんじがらめにして追い詰めちゃっているようなところがあって。例えば、子どもが非行に走ったら、親はそれを全部自分のせいだと思っちゃう。子どもが小さい時に良かれと思ってやったことも引っ張り出して、私が全部悪いって。でもね、その頃良かれと思ってやったのであれば、それはそれで自分の中でよしとしないと次に進めないでしょう?結果、子どもが息苦しくなったのだとしたら、それに対してどうするかを考えればいいと思うの。さすがに相談受けている時にこの夢の話はできないけれど、でも、「どんなにつらい状況でも絶対に最後まで落ちちゃうことはないのよ。あなたは飛べるのよ。」って、そういう感覚を伝えたい。

-困難の最中にある時には気づけないこともありますよね。

伊藤:あるある。私はね、ずっと父を敵だと思って大きくなってきたの。父のせいで母が苦しんでいるって。でもね、父の葬式で初めて父のことを理解できたの。父は親としては失格だったけれど、人としてはいい人だったんだって。生前は、父の存在や優れた部分、自分に似ているところを認められなかったけれど、お葬式でね…。まあ、人生そういうこともあるのよ!

-お葬式で何かあったんですか?

伊藤:すごいお葬式だったの!私たちは父とそういう関係だったから、もう密葬で十分と思っていた。そしたら、父は生前教師をしていたのだけど、古くからの教え子たちが「だったら僕らがやる」って集まってきて、当時60くらいの教え子たちが全部やってくれたの。その中で、生前父が少年院上がりの非行少年と新劇を見に行った話を聞いたり、父のすごく優しくて人情深い一面を知った。
それから、父は昔、脚本家になろうと思って、乳飲み子と三歳の子どもを置いて、東京にひとりで出たことがあったらしいの。ちょうど杉村春子がいた頃の文学座に。それで母はものすごく苦労した。葬式では、その頃父が書いた文章や詩も知ることができたんだけど、それがね、すごくいい詩だったの!生前、家族の中では、存在することも許されなかったような父だったのに。人生って分からないなと思った。
そういう父との一件もあって、母に対しても、私を育ててくれたことを感謝できる状態で今介護できている。怨念ばっかりじゃ介護できないから。そこまで長生きしてくれたから感謝して見送ることができるし、本当によかったと思っているの。
こんな風にね、その時が全てじゃないの。子どもも親も人生ずーっと流れていく時間軸の中での、一時を今生きている。めぐり合わせなのよ。ある時すごく大変だったことが後で振り返った時にものすごいハッピーにつながることもある。私は20代30代のお母さんよりも長く生きてきて、そういうことを少し分かっているから、相談にのる時も「本当に大変だね」って共感はするけれど、でも明日に希望が持てる。今大変だけど、明日はどうかな?って、お母さんと一緒に考えられるのよ。それにさ、子育て層が明日に希望を持てなかったら日本に未来はないわよ!(笑)

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プロフィール


伊藤保子さん
特定非営利活動法人さくらんぼ理事長。横浜市で小規模保育を中心に6園の保育室を運営。その他にも瀬谷区地域子育て支援拠点「にこてらす」や派遣事業「子育てなんくる応援団」など、様々なやり方で地域の子育て支援に携わっている。全国小規模保育協議会の理事も務めている。

特定非営利活動法人さくらんぼ
http://www.sakuranbo.or.jp/

 

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