#015 伊藤保子さん

#015 伊藤保子さん

3.母親が自分自身にYESと言ったその先に

伊藤:保育園を立ち上げる前、毎月議論していた時期は「私、何やってるんだろう」って思うこともあった。大学のゼミみたいに本当に色んな討論をしたのよ。でもあの一年間で吐き出した私たちの本音が事業のヒントになっている。すごく大事だったと思う。
例えば、自分たちが子育てで困ったことを挙げていた中に「3軒先に保育園があったのにインフルエンザでひいひい言っている時にだれも助けてくれなかった」という話があった。今は一時預かりもあるけれど、当時はそんなもの皆無で、保育園は働いているお母さんだけ、決まった人だけしか利用できない施設だったから、それが当たり前だった。でもその町に住む普通のお母さんが困った時に保育園を使えないなんておかしいと思って、うちの園ではずっと一時預かりをやってきた。育児に疲れたとか、今日はどうしても子どもの顔を見たくないとか、理由は問わずに受け入れるの。それで何年度に何人利用してどんなだったっていう事実を集めて「一時預かりを横浜じゅうに提供できたら、子育ての問題の半分は解決できる」とずっと声をあげてきた。
ちなみに今横浜市は一時預かり保育をやっていて、1時間300円で預けられる。今はさくらんぼだからできる事業じゃなくて、きちんと制度化された、みんなが使える仕組みになっているの。

-みんなで集まって議論したから「そういえばこれっておかしいよね」と問題に気がつくことができたけれど、当時はみんな、そういうものだと思って我慢していたんですよね。

伊藤:今でもそういうことはありますよ。こないだ鶴見でベビーシッターの事件1があったでしょう。本当は母子家庭支援の一環で、夜間子どもを預けられる仕組みがちゃんとあるんです。でも、必要な情報が必要な人に届かず、お母さんは自分で何とかしようとした。そして事件が起こってしまった。お母さんのバッシングが以前に比べて強くなかったことについては、少しは世の中が成熟したかなと思ったけれど、私悔しくてあの後調べたの。ちなみに、もしもうちに来てくれていたら、1時間300円で子どもを預けられたのよ。

-あるのに活用されていない仕組みがあるなんて、もどかしいですね。

伊藤:でもこういうことって本当にたくさんあるのよ。近所の母子家庭のお母さんが体を壊して病院から検査入院を勧められた。でも入院しようにも子どもを預かってくれる人がいない。たまたまうちの関係者とつながりがあるお母さんだったから、その方にヘルパー登録をお願いして見られるようにコーディネートしたの。その時に、横浜市にヘルパーに支払う謝礼の目安を問い合わせたら「私の知る限り前例がありません」と担当者に言われたの。活用されるべき仕組みが箪笥の奥にしまわれ、子育てがお母さんの頑張りにゆだねられている。私は、こういうお母さんに押し付けたり、お母さんを縛ったりするやり方をできるだけなくしたいと思ってるの。

-例えばどんな風に実践されていますか?

伊藤:子育て支援施設の多くは、母親が子どもを見ながら利用する施設で、子どもがちょろちょろ離れるとすぐ「お母さんちゃんと見ててください」って言うの。でも私はそういうことは絶対にするなと言ってる。けがさせないために母親のところに戻してどうするの?例えば水遊びの時の張り紙で「子どもは5センチの水でも死に至ります」そこまではいい。でもその後に「目を離さないで見ていてください」って余計な一文をつけて、すぐお母さんを縛るような規則だらけにするでしょう。お母さんは言われなくても分かってるし、そうすることでお母さん同士で言い合ったり見合ったりすることがなくなってしまう。別に規則で縛らなくたって、みんなで見ればいいじゃない。職員や他のお母さんたち、大人は他にもたくさんいるんだから。お母さんに責任を押し付けたり圧力をかける風潮、そういうことに対して私はしつこいの。

-子どもが子どもとして育つことを尊重し、同時に、お母さんを子どもに縛りつけない。こういう考えの根本にあるものは何だと思われますか?

伊藤:やっぱり…自分の母がすごく苦労しているのを見てきたから、かな。「この人子ども産んで幸せだったのかな」って思春期の頃、思ってた。母は大正生まれなんだけど、あの時代の女性ってあんまりいいことないの。青春時代は戦争で、引き上げの大変さやその後の生活苦も知っている。やっと子どもが育ったと思ったら高度経済成長で、子どもはどんどん自由になって、親を敬うってことも薄れている。
母は気位が高いのに、なぜかぼんぼんの生活力のない人と結婚して、ずっと苦労していた。父は早くから介護が必要になったのだけど、でも母は自分の人生は自分でちゃんと始末つけようって覚悟があったのか、私を家に縛らなかったの。母から「女だから」って何かを制限されたことはなかったし、世の中の規範やありきたりは脇に、なんでもやりたいことをやらせてもらえた。だから私は結構、自尊感情というか、自分はやればできるんだって感覚があるの。こういう風に育ててもらえたことをものすごくありがたく思っている。
でも…なんかね…母はさみしかったんだと思う。母は、女性としての自分の生き方にNOだった、女であることを不幸だと感じていたように見えた。でも…だとしたら、私は幸せになろう、女性として幸せになりたいと思った。同じように今の若いお母さんたちにも幸せになってほしいと思うのよ。「私、女に生まれてよかった!」って、まず女性としてYESと言ってほしい。そこにYESって言えたら、きっと子育てもYESって言えると思うんです。
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  1. 2014年に起こった事件。インターネットの仲介サイトを通じてベビーシッターに預けられた2歳男児が遺体でみつかった。事件をきっかけに、母子家庭の母親が夜間働く上での保育が不十分であること、ベビーシッターサービスに対するチェック機能が不十分であることが議論となった

プロフィール


伊藤保子さん
特定非営利活動法人さくらんぼ理事長。横浜市で小規模保育を中心に6園の保育室を運営。その他にも瀬谷区地域子育て支援拠点「にこてらす」や派遣事業「子育てなんくる応援団」など、様々なやり方で地域の子育て支援に携わっている。全国小規模保育協議会の理事も務めている。

特定非営利活動法人さくらんぼ
http://www.sakuranbo.or.jp/

 

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