# 014 深津高子さん

子どもから始まる平和

#014 深津高子さんインタビュー

イタリア初の女性医学博士マリア・モンテッソーリによって、障がい児の治療教育として始まったモンテッソーリ教育。深津高子さんとの出会いは2011年AMI国際モンテッソーリ教育3-6アシスタントコース。講座のオブザーバーとして参加され、幼児教育の講座にも関わらず、エコロジーや平和、街づくりなど子どもにとどまらない話をされる姿に惹きつけられた。
現在は教師ではない形でモンテッソーリ教育に携わりながら、エコロジーや街づくりなどにも積極的に活動されている深津さん。そういった活動はどんな問題意識から始まったのか?深津さんのモンテッソーリ教育を通じた社会との関わり方についてたっぷりとお話を伺った。

1.生命が育つお手伝い

-モンテッソーリ教育に関する通訳や講演、執筆などをされていらっしゃいますが、どういった経緯でこういったお仕事をされるようになったのですか?

深津:以前は府中のモンテッソーリ幼稚園に勤めていたのですが、10年以上勤めていると一生懸命になるあまり自分のクラス運営に夢中になり、その結果、だんだん井の中の蛙になってきてしまいました。子どもは大好きで離れたくなかったのですが、もっと広い世界の子ども事情、特に貧困地域の子どもたちの現状を見たいと思うようになりました。また元々グラフィックデザインの仕事をしていて、視覚伝達や人に何かを伝えることが好きだったこともあり、モンテッソーリ教育を正しく伝える仕事をと考えるようになりました。

-「正しく」というのはどういうことですか?

深津:モンテッソーリ教育には商標登録がなく、誰でも「モンテッソーリ教育をやっています」と名乗れます。日本には約2000校もの自称モンテッソーリスクールがありますが、子ども中心の素晴らしい環境もあれば、お受験のためだけの塾のようなところ、ピンクタワー1 がちょこっと置いてあるだけのところ、週に数回だけ「モンテッソーリの時間」があるだけのところまで、玉石混淆。だから今、本当にモンテッソーリ教育の中身が問われていると思うのです。
モンテッソーリ博士は、自分が亡くなった後も、このモンテッソーリ教育が伝言ゲームのように間違って伝わらないように、1929年、モンテッソーリ自身が50代の時にAMI(国際モンテッソーリ協会)という団体を息子のマリオと一緒に設立しています。
例えばAMIの教師養成コースでは、子どもの手や体の動きや、言語発達の観察を100時間近くも行い(3-6歳コース)、乳児のコースでは210時間も観察を行います。なぜかと言うとモンテッソーリ博士は科学者でしたが、現代のような便利な医療機器はなく、まず患者をよく観察することから診察を行っていたからです。同じように子どもたちにおいても、観察からニーズを知ることを大切にしたのです。

だからモンテッソーリ教育では、今でも教師はまるで植物を観察するように注意深く子どもを観察し、そこから学ばせてもらいながら子どもに関わるわけです。そういう黒子的な存在となり、子どもの発達に仕えることができるようになるために、AMIの教師養成コースでは1年から2年かけて、厳しいトレーニングを行います。
一方、もっと短期間でモンテッソーリ教師を育成するようなコースもあります。確かにピンクタワーを操作する方法は数分間で習得できるかもしれない。でもモンテッソーリ教育は、教具の操作だけではなく、独特の宇宙観とも言える深い哲学に根ざしたものなのです。

例えば子どもがボタンをはめる時、大人がやれば一瞬でできる。でも子どもが自分でやる場合、穴にボタンを入れて反対側から引っ張り出すことを、試行錯誤しながら行うので、ものすごく時間がかかる。モンテッソーリ教育ではこういう“子どもが集中する時間”を非常に大切にします。時間はかかっても、教師は決してすぐには手出しせず、子どもがどういう体の使い方をしているか、どこでつまずいているかを観察しながら、辛抱強く待つ。その上で、必要と判断すれば、子どもが自分自身でできるためのサポートをします。
モンテッソーリ教育というと教具のイメージが強いですが、本質はAid to Life。つまり生きるためのお手伝いをすることです。そしてLifeが示しているように、生まれてから死ぬまでの人生の援助とも言えます。モンテッソーリ教育は幼児教育だけではありません。認知症の方や半身不随の方への関わりにも応用できます。もし片方の手がよく使えない方がいれば、片手でも握れる大きさや形におにぎりを作る。またおにぎりが見えやすいように、黒いお皿に載せる。このように対象者が子どもであれ要介護の方であれ、観察を通じて、相手が自分自身でできるためのお手伝いをすることがモンテッソーリ教育です。
知れば知るほど、生命が本来持っている力を邪魔しないことは、すごく当たり前のことだと思います。本当は“モンテッソーリ教育”という言葉より、こういう考え方が常識になっていけばいいなと思っています。

深津高子さん、カフェスローにて
深津高子さん、カフェスローにて
  1. 1辺が1cmから10cmまでの10個のピンクの立方体。大きい順に積むとタワーのような形になることからこう呼ばれる。ひとつずつ積み上げる作業を繰り返すことで、視覚による大きさの識別能力が高まるのを助けるモンテッソーリの感覚教具

index

  1. 生命が育つお手伝い
  2. 文化を手渡す仕事
  3. 幸せに生きるヒント“知的自立”
  4. あるがままの世界から学ぶ
  5. 私は宇宙に住んでいます

 

Profile

深津高子(ふかつたかこ)
保育アドバイザー。国際モンテッソーリ協会(AMI)公認教師、同協会元理事。

教師養成コースの通訳や講演などを通して、モンテッソーリ教育の普及に関わるほか、一般社団法人AMI友の会NIPPON副代表、ピースボート洋上『子どもの家』アドバイザーも務める。