#012 多田千尋さん

#012 多田千尋さん

5.おもちゃなんていらない

—おもちゃのことをお聞きしようとうかがいましたが、どんどんおもちゃがいらない方向に来ました(笑)。
いま少し、おもちゃの話を。先ほど、おもちゃを媒介とした社会的活動、という話が出たとおり、多田さんは小児病棟や高齢者施設など福祉の現場にも、おもちゃを通じてアプローチされています。

多田:遊ぶことこそ日常である、と考えたときに、遊ぶことを許されない状態が人間に与える影響は推して知るべしです。そんな状態にあるのが日本の小児病棟の子どもたちであり、多くの高齢者施設におけるお年寄りたちです。
たとえばアメリカの小児病棟には、子ども療養支援士や、チャイルド・ライフ・スペシャリスト1といった、子どもの遊びを支えてくれる専門家が必ず配置されています。が、日本はまだまだ遅れている。
そして「遊び」は子どもだけのものではない。高齢者にとっても、決して奪ってはいけないものなんです。それなのに、残念ながら多くの高齢者施設ではお年寄りを「心の餓死」寸前に追いやっているのが現実で。そういう人たちに、おもちゃを通じて遊びを取り戻す、ひいては人間を取り戻すのが、今の小児病棟や高齢者への活動だと思っています。
ほとんど表情がなかったお年寄りにお手玉を手渡すと、急にひょいっと3つくらい軽やかにお手玉を投げはじめる。その様子を見て、昔語りをはじめる人がいる。そういう姿を目の当たりにすると、遊びの持つ力の大きさ、そしてそこにおもちゃが果たせる役割の大きさを思い知らされます。

やんばる森のおもちゃ美術館(沖縄県・国頭村)にて

やんばる森のおもちゃ美術館(沖縄県・国頭村)にて

あとは、幼老の交流ね。後期高齢者って、第二の遊びの天才期なんですよ。またこの人たちがすごい。でね、0歳から6歳の前期子ども期の遊びの天才と、75歳以上の後期高齢者の遊びの天才が、また相性が抜群なんですよ。
さっき言ったように、子どもは聞きたがりの天才でしょう。後期高齢者は、話したがりの天才なの(笑)。そして両者は、繰り返しを楽しめる。だから出会えば驚くような交流が生まれるし、もちろん高齢者にとっては何よりのリハビリの効果があるんです。こういった場でも、遊びの仲介役として「おもちゃ」とおもちゃの専門家が活躍しています。

—75歳以上の方々の「天才」的な遊び力は、どこからやってくるのでしょう。

多田:それはきっと、0から6歳までに育んでいたものが、再び目覚めてきているんですよ。前期子ども期を「天才時期」として豊かな遊びをして生きられた方のみに、75歳の、二度目の天才時期がやってくる。そういうことは、絶対にあると思いますね。その意味でも、前期子ども期を「プレイヤー」としてすごしておくことは、とても大切なんですよ。

—レイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー」を翻訳された上遠恵子さんが先日、同じようなことをおっしゃっていたので、とても驚きました。「私は子どものころ育んでいた『センス・オブ・ワンダー』によって、80歳をすぎた今も幸せです」と。

多田:僕は、あの本のなかでいちばん大切な一節は、「知るということは、感じることの半分も大切ではない」っていうところだと思っています。要するに「知育」じゃないってこと。感じなきゃだめなんですよね。実体験によって感じること、それは「遊び」においてももっとも大切なこと。その意味において、子どもにとってのいちばんのグッド・トイは、やはり自然だと思います。これにかなうものはない。
ただ、自然をグッド・トイにしようと思うと、持続性が必要なんですよね。マラソンランナーのように付き合わなきゃだめなんです。ところが、多くの親たちはね、まあ僕もそうだったんだけど、短距離走のようになってしまって、ときどき山や海に連れて行って満足しようとしているんですよ。これでは子どもは「気持ち悪いー」で、べそかいて終わってしまう。
おもちゃにだって「コンサルタント」が必要とされる時代、自然と子どもを仲良く付き合わせようと思うと、もはや仲人役が必要です。自然が楽しいものだっていうことを伝えられる優秀な仲人ね。それはもちろん親御さんでも先生でも、ときには子ども同士でもいいんだけれど、導いてくれる人がいないと、いつまでたっても自然と子どもは平行線の距離感が続いていってしまうんじゃないかというのは、僕のなかにもあります。
でもね、ひとたび自然を味方につけたらもう、どこでだって何でだって楽しむことができる。おもちゃなんてなくてもね。これこそが、人間を根っこから支えてくれる、豊かな「遊び力」になってくれるんです。

—やっぱり、おもちゃが不要になってきてしまいました(笑)。

多田:そうそう、そんなもんですよ(笑)。もし、「おもちゃ」に順序をつけるとしたら、まずは自然物、次にママパパの手と声と顔。その次にやっと、いわゆる「おもちゃ」ですね。
いつもじゃなくてもいい、たまには子どもに「いないいないばあ」してあげてますか?って。あなたの手と声と顔を使わずに、「ヨーロッパのおもちゃじゃなきゃ・・・」なんて言いなさんなよ、ってね。僕はそう思ってるんです。

—ありがとうございました。

  1. 医療環境にある子どものトラウマを軽減したり、家族を含めた心理社会的支援を行う専門職のこと

プロフィール

多田 千尋(ただ ちひろ)1961年東京生まれ。明治大学卒業後、ロシア・プーシキン大学に留学し、幼児教育、児童文化を学ぶ。芸術教育研究所所長、東京おもちゃ美術館館長、高齢者アクティビティ開発センターの代表を務めるほか、認定NPO法人日本グッド・トイ委員会理事長、早稲田大学福祉文化論講師でもある。著書は『遊びが育てる世代間交流』『世界の玩具辞典』など多数。

Index

  1. 関わり方で、役割は変わる
  2. 生きることは遊ぶこと
  3. 楽しさを生み出す力を
  4. 「社会的装置」として引き継ぐ
  5. おもちゃなんていらない

インタビュー日:2013.11.1 @四谷・東京おもちゃ美術館
インタビュアー:玉木美企子

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