#012 多田千尋さん

#012 多田千尋さん

遊びこそ日常

#012 多田千尋さん インタビュー

東京おもちゃ美術館館長であり、日本グッド・トイ委員会理事長。言わずと知れた「おもちゃのスペシャリスト」である多田千尋さんのもとを私が訪ねたいと思ったのは、4歳になる長男の、あるひとことがきっかけでした。
「大好きな虫取りを思いっきりしにいこう!」。そう意気込んで出かけた昨年夏の旅行のときのこと、彼は突然「おもちゃで遊びたい」と言い出しました。しかも、「自分のおもちゃで遊びたい」と。私は「せっかく虫取りしに来たのに!」とやきもきしながらも、何かは分からないけれど大事なことに触れたような直感を覚えました。そしてそのときはじめて、ふだん何気なく選んだり与えたりしてきた「おもちゃ」という存在について、きちんと意識をしたように思います。
そこでこのエピソードを入り口に、多田さんにおもちゃ、そして遊びについて、お話をうかがいました。

1.関わり方で、役割は変わる

多田:最初にうかがったエピソードで、まず興味深いのはね、親であるあなたの「せっかくここまで来たのに」っていう気持ちです。「なによ、せっかくお膳立てしたのに普段でも遊べるようなおもちゃで遊びたがって」、って思ったのかな。「どれだけお金かけたと思ってるのよ!」なんて部分もあったり(笑)。

—たしかにそうかもしれません(笑)。

多田:でも案外ね、大自然のなかで思い切り遊ばせたいなんて、親のエゴだったりするんですよ。じゃあ、わが子が自然と仲良く付き合っていけるような育て方ができているのか?っていうとね、子どもの側から見れば、いろんな不満があるんじゃないかな。普段そんなに自然なんて触れさせてもらえないのに、いきなり大自然のなかに放りこまれて「さあ遊べ」って言われても、困っちゃうよ、って。自然となんて、どう付き合ったらいいのか分からないよ、とかね。いろんなことが、声なき声として、子どものなかに起きたんでしょうね。
じつは自然って、子どもにとって、ちっとも居心地いいものなんかじゃないです。へたすると気持ち悪いですよ、ぐじゅぐじゅしたり、ざらざらしたり。青山通りの「子どもの城」にでもいたほうがよっぽど気が楽だよって(笑)、慣れないうちはそういうふうに思って当然です。
そんな子どもの反応は、近年は全国、どこへ行っても同じです。いま、新しいおもちゃ美術館 1のために沖縄をよく訪れますが、自然豊かな沖縄でさえ、子どもの遊びはほとんど変わりません。

—そんななか、おもちゃはほとんどの子が生まれたころから・・・

多田:付き合っている。ずっと慣れ親しんでいるんですね。
おもちゃって、すごく懐の深い存在なんですよ。言葉はひとつしかないけれど、その役割は多様で。私たちはそれを、「ヒーリングトイ」「アクティビティトイ」「コミュニケーショントイ」等々に分類しているけれど、それはそういうおもちゃがあるわけではなく、遊ぶ人それぞれの関わり方によって、役割が変わってくるものなんです。その人のそのときの状態によっても変わってくるし、成長段階によっても変わってくる。

—そして結局は、どんな人でも受け入れてくれる。

多田:そう、だから私は、おもちゃって「生活道具」だと思っているんですよ。まな板や歯ブラシと同じ、いやそれよりも、人間の基本的なところを支える「生活道具」なんです。

東京おもちゃ美術館館内にある、0〜2歳のための「赤ちゃん木育ひろば」

東京おもちゃ美術館館内にある、0〜2歳のための「赤ちゃん木育ひろば」

  1. 2013年11月に沖縄県国頭村に開館した「やんばる森のおもちゃ美術館」のこと

プロフィール

多田 千尋(ただ ちひろ)1961年東京生まれ。明治大学卒業後、ロシア・プーシキン大学に留学し、幼児教育、児童文化を学ぶ。芸術教育研究所所長、東京おもちゃ美術館館長、高齢者アクティビティ開発センターの代表を務めるほか、認定NPO法人日本グッド・トイ委員会理事長、早稲田大学福祉文化論講師でもある。著書は『遊びが育てる世代間交流』『世界の玩具辞典』など多数。

Index

  1. 関わり方で、役割は変わる
  2. 生きることは遊ぶこと
  3. 楽しさを生み出す力を
  4. 「社会的装置」として引き継ぐ
  5. おもちゃなんていらない

インタビュー日:2013.11.1 @四谷・東京おもちゃ美術館
インタビュアー:玉木美企子

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