荒井良二さんインタビュー

#004 荒井 良二さん

6.保育は、保育だけのもの?

—いろんなところにワークショップで行かれてて、環境も考え方も、場所によって全く違ってくると思うんですけど、子どものいる現場を見られていて、何か感じていることがあれば教えてください。

荒井:教育的な観点からは言えないけど、俺自身思うことは、環境が大切だという気がしてるかな。大体、学校って苦手なのよ。学校に行かなきゃならない時もあるけど、入るだけで嫌だもん。学校へ行くと、ある面その子自身が、どこにいるのかわからなくなるところがあると思うんだ。
たとえば、ある学校の保育科で授業をやったんだけど、そこでは「アンパンマン」を教室に貼っててね。「貼るのはいいけど、毎日取り去って帰って欲しい」って話したの。生徒達は毎日そこに通っているわけだから、何も疑問に思っていないのも当然だと思うけどね。 俺は、「アンパンマン」とか「ドラえもん」を貼れば、保育っていいの?って思ってしまうんだ。でも、そういうことに疑問を持たない人たちと話してもなかなか伝わらない。最初から大きなところで溝があるからね。

—こういう場だったらいいなぁ、というイメージはありますか?

荒井:「保育って保育だけのものなの?」って考えてしまうところがあってね。いま教えておかないとならないことで、手一杯になってしまうのはわかるんだけど、それ以外のこと、余計なことが少しでもあれば、おもしろいだろうなって思うんだけどね。「共感覚」っていう言葉をそこで使っていいかわからないけど、「なんだかわかんないけど、これ良い感じ!」って、子どもが感じられるような、そういう場であって欲しいよね。「こうでなければならない!」って、感覚まで型にはめるんじゃなくてね。
教育には、そういう部分もあるんだろうけど、「器」の部分でできることだって、あると思う。椅子ひとつでも、床にしたってね。予算がないからっていうんだろうけど、何かアイデアで出来ることってあると思うな。 「こうしたらこうなる」だけじゃなくて、「こうしたらどうなるんだろう?」っていう感覚がないと、いろんな人のいろんな感覚を引き出せないと思うんだ。

Profile

荒井良二 荒井良二(あらいりょうじ) 1956年山形県生まれ 日本大学芸術学部美術学科卒業。 イラストレーションでは1986年玄光社主催の第4回チョイスに入選。1990年に処女作「MELODY」を発表し、絵本を作り始める。1991年に、世界的な絵本の新人賞である「キーツ賞」に『ユックリとジョジョニ』を日本代表として出展。1997年に『うそつきのつき』で第46回小学館児童出版文化賞を受賞、1999年に『なぞなぞのたび』でボローニャ国際児童図書展特別賞を受賞、『森の絵本』で講談社出版文化賞絵本賞を受賞、2006年に『ルフランルフラン』で日本絵本賞を受賞。90年代を代表する絵本作家といわれる。そのほか絵本の作品に『はっぴぃさん』『たいようオルガン』(偕成社)『えほんのこども』(講談社)『うちゅうたまご』(イースト・プレス)『モケモケ』(フェリシモ出版)など。作品集に『meta めた』(FOIL)がある。 2005年には、スウェーデンの児童少年文学賞である「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞」を授賞。「スキマの国のポルタ」で 2006年文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞。絵本のみならず、本の装丁、広告、舞台美術、アニメーションなど幅広く活躍中。 荒井良二オフィシャルWEBサイト http://www.ryoji-arai.info/