荒井良二さんインタビュー

#004 荒井 良二さん

3.100年後の人たちのために

—「共感覚」の他にも、いま気になっている言葉があれば教えてください。

荒井:「ノスタルジー」や「懐かしさ」が、ひっかかっているかな。去年、絵本をつくったことがない人のためのワークショップを板橋区立美術館でやったんだけど、内容はコピー用紙で風景をつくるっていうものだったんだよね。例えば、紙をカッターで丸く切って折りまげただけで「これ山かも」とかね。

—どんな風景ができたんですか?

荒井:18歳から70歳くらいまでの参加者のほとんどが、子ども時代の風景をつくってくれたんだよ。それが、すごくおもしろくてね!コピー用紙を細かく切って、芝生をつくってくれたりね(笑)。「これは、どこどこの芝生だ」っていうんだよ。すごいなぁって思って。「絵本」って、最初からワークショップのタイトルについているから、「絵本=子ども時代=ノスタルジー」って、連想されたのかもしれないけど。

 でもさ、全然行ったことがない場所でも、懐かしい感覚になることってあるじゃない。そういうことを考えていくと「共感覚」と「ノスタルジー」って、関係あるんじゃないかなって思ったりしてね。絵本のワークショップをやると、大人は大体、自分の子ども時代を振り返るんだよ。みんなそうやって振り返る作業をするし、ある種のノスタルジーに浸るというか。それがいい面もあるし悪い面もあると思うのね。自分がノスタルジーに浸っていることに気がついてない人もいっぱいいるし、積極的にノスタルジーに浸っている人もいるしね。そういう、想い出に固執する姿勢ってなんだろう?って思うんだよね。否定する訳じゃなくて、すごくおもしろいと思うんだよね。

—大人になると、絵本に子ども時代のイメージを投影してしまうんでしょうか。

荒井:それが悪いとは思わないけどね。でも、ノスタルジーに全て押し込めてしまう感じがあるよね。絵本だけじゃなくて、アニメーションでも映画でも、懐かしさを盛り込んでいる人って、いっぱいいるよね。

—荒井さんは、どうですか?

荒井:俺は、意識的に避けてると思う。懐かしいとか言われたくないよ。 売れるっていうのは、ある種のノスタルジーが入っていることって結構あるよね。 プロの人は、そのあたりをうまくコントロールしてると思うし。でも、過去に何があったのか、なんていうのは、後になってから興味がわいたりすると思うし、大人って「こんなこと知らなかった!」っていうことの連続だもんね。

絵本って、時代を超越した、ある普遍性みたいなものが含まれてると思う。まぁ、いい絵本に関して言えばだけど。もしも、俺の絵本の中で、そういう条件にあてはまるものがあるとしたら、そうやって100年後まで生き延びたりするかもしれない。そうした時に、100年後の人たちが見て「懐かしい」って感覚になるんだろうか?ってドキドキしているけどね。それは、自分では確かめることはできないけど。だから、いま誰も懐かしいなんて思わないようなものを描いてやる!って思ってるところあると思うよ。俺は、100年後の人たちのために描いてるんだって。

Profile

荒井良二 荒井良二(あらいりょうじ) 1956年山形県生まれ 日本大学芸術学部美術学科卒業。 イラストレーションでは1986年玄光社主催の第4回チョイスに入選。1990年に処女作「MELODY」を発表し、絵本を作り始める。1991年に、世界的な絵本の新人賞である「キーツ賞」に『ユックリとジョジョニ』を日本代表として出展。1997年に『うそつきのつき』で第46回小学館児童出版文化賞を受賞、1999年に『なぞなぞのたび』でボローニャ国際児童図書展特別賞を受賞、『森の絵本』で講談社出版文化賞絵本賞を受賞、2006年に『ルフランルフラン』で日本絵本賞を受賞。90年代を代表する絵本作家といわれる。そのほか絵本の作品に『はっぴぃさん』『たいようオルガン』(偕成社)『えほんのこども』(講談社)『うちゅうたまご』(イースト・プレス)『モケモケ』(フェリシモ出版)など。作品集に『meta めた』(FOIL)がある。 2005年には、スウェーデンの児童少年文学賞である「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞」を授賞。「スキマの国のポルタ」で 2006年文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞。絵本のみならず、本の装丁、広告、舞台美術、アニメーションなど幅広く活躍中。 荒井良二オフィシャルWEBサイト http://www.ryoji-arai.info/