#002 萩原 修さん

3.本当の実力が試される場

こどものコップ
こどものコップ

遠藤:ひとつのプロジェクトがどんなふうに始まり、まとまっていくんでしょうか?

萩原:まとまらないですよ(笑)。「コド・モノ・コト」の枠組みは、限りなく緩くしたいと思っていて、運営上コアメンバーを決めて、定期的に集まっていろんなことを決めていくんですけど、あんまりコアメンバーが強くなりすぎないようにしたいと思っていて、それぞれがやりたいことをやれるような場所にしたいんです。でも、発表までほっとくのか、というとそうではなくて、みんなで話す場を設けたりとか、子ども連れで公園に行ってみるとか、プロセス自体も一緒に楽しむようにしています。結果が出ればいいってわけではなくて、プロセスも楽しくないと。

具体的には、展覧会だと短くて半年ぐらい前からテーマを決めて、それで誰に声掛けようかっていうのが決まって、みんなで集まって、その後何回か途中経過を報告しながら進めています。途中経過を発表しあうことで、それをきっかけにそれぞれ刺激を受けながら進められると思うので。自分の名前で何か発表するっていうことになれば、下手なことはできないし、本当に実力が試されるんですよね。

OZONEでさんざん展覧会を企画していた時も、最初のうちは、テーマを投げかけたら、展覧会の当日まで会わないような、割と省力化の方向でやってたんですけど、そのうち、テーマを決めるところからデザイナーに入ってもらって、みんなで広げていくやり方へと変化していったんです。みんな個性的に自分がやりたいことをやりながらも、全体としては、ある方向がきちっと見えてくるようにしたいと思っていて。でも、なかなか難しいんですけどね。

こどものコップ
こどものコップ デザイン:大治将典 デザイナーの大冶さんが、まだ小さかったご自分の息子さんのためにデザインした「ホンモノ」のコップ。

遠藤:難しそうだし、きっと手間もかかりますよね。

萩原:ええ、難しいんですよ。面倒な方法だけど、そういう方法がいいと思っているので。ためにはなる気もしますしね。刺激もあるし。

遠藤:完成したプロダクトは、販売もしてるんですか?

萩原:それは、それぞれのデザイナーにまかせています。メーカーと組んだり、自分のお金で作れる範囲で売れるようにするとか、展覧会のためだけにいくつか作って売るとか、いろいろあります。継続して売っていく出口がつくれていなかったので、今年まずはネットショップをオープンさせました。いつかは、小さくてもショップができればいいなと思っているんですけどね。

遠藤:「コド・モノ・コト」のデザイナーを決める時には、どんな基準で選ばれてるんですか?

萩原:「こういうものをデザインして」って依頼するわけじゃないから、デザイナーが自発的に「こんなのつくりたい」っていうモチベーションがあるっていうことが前提としてありますね。
後は、どんな基準で選んでるんだろう。 子どもがいる、いないっていうわけでもないんですよ。全体として企画しているので、全然違う発想をしてくれそうな人たちをバランスをとりながら、その都度選んでいくという感じですね。

うるしのさじ
うるしのさじ デザイン:増田多未 おとなが赤ちゃんの口にはこぶこと、赤ちゃんがじぶんで持ってたべること、そしておとなも使えることも考えてデザインしている。

Profile


萩原 修(はぎわら しゅう)
デザインディレクター 1961年東京生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。 大日本印刷を経て、93年よりリビングデザインセンターOZONEで、住宅、家具、日用品など生活デザインの展覧会を300本以上担当。 04に年独立し、書籍、日用品、店舗、展覧会、コンペなどの企画、プロデュースをてがける。また、『コド・モノ・コト』『中央線デザイン倶楽部』『国立本店』『未来本』『かみの工作所』『カンケイデザイン研究所』『てぬコレ』など独自の活動を推進している。 著書に「9坪の家」「オリジンズ」「デザインスタンス」「コド モのどうぐばこ」などがある。2005年には、実家の後を継ぎ、『つくし文具店』店主になる。

コド・モノ・コト
http://www.codomonocoto.jp