[編集後記]信友智子さんインタビュー

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第二子出産からほぼ一年が経とうという今、やっとこのインタビューを公開することができました。助産師の信友智子さんへのインタビューは、第二子出産後7ヶ月が経った頃に第一回目を行い、その後校正段階での追加のものとあわせて3回に及びました。それでも、まだまだ聞き足りない…。

今回、私自身の体験からどうしても聞いてみたかったのは、対人援助である助産を支える態度についてと、出産中の先生自身のあり方についてでした。
一つ目の問いは、妊娠中から産後までを思い返すと、最初は「支援者と支援を受ける人」であったのに、いつしか「個人と個人」という関係性もかなりの割合で含まれていった感じがあって、その変化を生んだのは、一体何だったのだろう?という疑問からでした。助産という対人援助の仕事を深めていく中で掴んでいった先生の態度として、インタビューの中で見えてきたのは、本文の中にはいれられませんでしたが「自分を開示する」という言葉でした。本文中では「私の暮らしにお産がある」「公私融合」という言葉で語られています。

そして、もうひとつの問い、出産中のあり方については、インタビューの中にあったような「究極の山登り」の最中、どのような心持ちであの場にいるのか、ということでした。「いるようでいない、いないようでいる」という言葉で表現されましたが、まさにそのような体験で、必要な時にふっと湧き上がり、そうでない時は気配がほとんど感じられないのです。何度思い返してもわからない。これ以上ないくらい心地よい、不思議な体験でした。でも、この体験はきっと、はじめて会った人との間では全く成り立たない。それ以前の深い関係性が山登りの最中に持ち込まれてはじめて起きてくる作用なのではないかと。だから、この二つの問いは、重なりあっていて、その全体をして先生の「魔法」。助産とは、という問いの答えがここにあるような気がします。

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出産をめぐっては、産んだ人産まない人を含めて、さまざまな体験があり、その上での考えがあります。考えの違いは、子育てをめぐってもあるものですが、それ以上に出産をめぐる違いの溝は大きく、深いと感じています。それだけ、女性にとって強い体験なのでしょう。
産む場所が少なくなり、地域によっては選択できなくなっているし、経済的な理由や身体的な理由で選べない人たちも大勢いる。私自身は、どのような出産であっても、女性がその身体をかけているという点で本質的には同じだし、こうでなければ、というようなことはないと思っています。むしろ、こうでなければ、という考えが見えなくしてしまうものを警戒したいと思います。(まとめるにあたっても、できるだけ表現に気をつけたつもりではありますが、もし何か気になる表現があれば、参考にさせていただきたいので、メールいただければと思います。)

そうした大前提があった上で、それでもやっぱり哺乳類としてのあたりまえがあたりまえにできる身体と、それを可能にする環境が、次の世代、次の次の世代にも残されているといいと素朴に思います。しかし現実は厳しく、医療者や専門家の方々が「女性の身体が変わった」「産むこと自体が難しくなっている」と異口同音に語る姿を見ていると、哺乳類ヒト科のひとりとして不安に駆られます。さらに視野を拡げ地球規模で考えると、この流れは止められない気さえしてきます。私たちにできることは、これ以上、流れを加速しないようにすることくらいなのかもしれません。それでもなお、次世代を育てている私たちにできることがあるとしたら、それは一体どんなことだろう?という問いを、みんなで考えるために、信友先生にも参加いただく対話の場を来月か再来月あたりに、設けてみたいと思っています。インタビューの中で語られていたとおり「個々の事柄の良し悪しの問題ではないことを前提に、大きな観点をもって、議論を成熟させていく」一歩のために。(遠藤)

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最後に、このインタビューをまとめるにあたって参考にした本や映像など、以下にまとめています。
関心のある方はぜひ!

◯自然なお産、という場合の「自然」とはなにか?
西日本新聞社のサイトに信友先生の言葉で紹介されています。

◯ミシェル・オダンさんの2012年講演記録『オキシトシン・ラブ』(youtubeにとびます)

◯三砂ちづるさんのインタビュー「salitote」

◯『安全なお産、安心なお産 「つながり」で築く、壊れない医療』
河合蘭著
岩波書店刊

◯『みんなのお産 39人が語る「お産といのち」』
きくちさかえ編著
現代書館

◯『お産でいちばん大切なこととは何か: プラスチック時代の出産と愛情ホルモンの未来』
ミシェル・オダン著
大田 康江、井上 裕美 (訳)
メディカ出版

◯『プライマル・ヘルス 健康の起源―お産にかかわるすべての人へ』
ミシェル・オダン著
大野明子 (訳)
メディカ出版

◯『分娩台よ さようなら』
大野明子(著)
メディカ出版

◯『ニュー・アクティブ・バース』
ジャネット・バラスカス著
佐藤由美子、きくちさかえ(訳)
現代書館

◯『出産の歴史人類学―産婆世界の解体から自然出産運動へ』
鈴木七美著
新曜社

◯『身体をめぐる政策と個人―母子健康センター事業の研究』
中山まき子
勁草書房